市村産業賞

第43回 市村産業賞 貢献賞 -02

非冷却高感度赤外線カメラの開発と実用化

技術開発者

日本電気株式会社 誘導光電事業部
エグゼクティブエキスパ−ト 小田 直樹

技術開発者 同社 ビジネスイノベーションセンター兼システムIPコア研究所
主任研究員 田中 昭生
技術開発者 同社 誘導光電事業部
部長 飯田  潔
推  薦 社団法人電気通信協会

開発業績の概要

 真の暗闇での監視や非接触での温度計測の目的で、赤外線カメラのニーズは高まっている。従来主流であった量子型赤外線センサは感度が高いものの冷却装置を必要とした。一方、熱型センサは赤外線を熱として検知する原理から、センサを冷却する必要がないため、小型化、低電力化、メンテナンスフリーの可能性を秘めているが、温度分解能は悪く実用には限界があった。従来の熱型センサは、微弱な検出器信号の読み出しにホイートストンブリッジ回路とオペアンプを用いていたが、チップ上に数100並べるオペアンプのノイズが支配的となる問題が生じた。さらに画素数を増やすため画素サイズを縮小すると、受光面積が減って信号量が減少する問題も生じていた。そのため温度分解能向上と高画素数化の両立には、低ノイズ読み出し回路と感度劣化を抑える微細セル技術の開発が必須であった。
 開発した熱型センサの信号読み出し回路は、入射赤外線による検出器の抵抗変化による微弱な検出器電流を直接コンデンサで蓄えて積分すると共に、コンデンサに一定電流を流し込み、検出器電流に含まれる余分なバイアス成分を取り除く(図1)。これによって信号飽和が起こらず、長い積分時間による低ノイズ化を可能にした。さらにセルの微細化においては、画素間の隙間に入射して失われていた赤外線を、庇状に張り出した赤外線吸収膜で受け止める構造を開発した(図2)。庇を部分的に形成することで応答速度を維持しながら高感度化を可能にしている。
 本技術による低ノイズ読み出し回路と高感度微細セルにより、8万画素以上で、従来比8倍の優れた温度分解能約0.05℃の非冷却熱型赤外線カメラを実現した。本技術を用いた赤外線カメラは、冷却装置不要よる小型、低電力、メンテナンスフリーの特徴を活かし、建物や装置の非破壊検査、監視カメラやヘリなどの夜間運行支援、インフルエンザ対策、スペースシャトル発射基地への配備や惑星探査機への搭載、ヒートアイランド現象を緩和する各種実証実験に利用され、産業、交通、医療、健康、宇宙開発、環境保全など幅広い分野に貢献している。


図1
図2