1990年代以降、鉛による環境汚染に対する関心の高まりを受けて各国で法規制の強化が進められてきた。電子回路基板で使用する鉛含有はんだには5000年の歴史があり、業界では長年かけて知見を蓄積してきた材料を新たな材料に置き替えることに対する不安の声があった。しかしながら、鉛を含まない接合技術に対する社会からの期待は高く、受賞者らはこれを実現する鉛フリーはんだの開発と世界に先駆けた実用化を進めた。
本技術は、Snを主成分とする鉛を含まない鉛フリーはんだを開発し、電子回路基板の鉛フリー化を実現したものである。キーとなる技術は、(1) 金属組織制御により鉛含有はんだと同等の特性を実現する材料設計技術(図1)、(2) 工業化に向けた各種形態の実装基板に対する量産化技術、(3) 長期使用時の接合品質を見極める信頼性検証技術である。特に、材料設計技術では、Sn亜粒界にAg3Sn金属間化合物を微細析出させて変形を防止することを基本構造とし、Cuにより接合界面の組織構造を制御したSn-Ag-Cuはんだと、BiとInの固溶強化で強度と低融点化を両立したSn-Ag-Bi-Inはんだを開発し、Snを主成分とする鉛フリーはんだの特性に合わせてフラックスの耐熱性と還元力を最適化することで鉛フリー接合を実現した。さらに、開発した鉛フリー接合技術を社内外に発信することでエレクトロニクス業界への普及に努めた。
開発された鉛フリーはんだは、フローとリフローの両プロセスで使えるSn-Ag-Cuはんだと低温実装が可能なSn-Ag-Bi-Inはんだである。その結果、欧州RoHS指令を3年前倒しし2003年に世界に先駆けてパナソニックブランド全製品の鉛フリー化を実現した(図2)。特に、Sn-Ag-CuはんだはISOとIECで国際規格に採用されグローバルスタンダードとなり、2010年にグローバルで87%が鉛フリー化され、19000トンの鉛削減に寄与した。鉛フリーはんだは鉛含有はんだには無い優れた特性を持ち、今後は欧州ELV指令により鉛含有はんだの使用が規制される見込みの自動車分野での普及等、多方面に展開する可能性を秘めた材料である。
|