市村産業賞

第44回 市村産業賞 功績賞 -02

スポットスキャニング粒子線治療システムの開発、実用化

技術開発者

株式会社 日立製作所 日立研究所
主管研究長 平本 和夫

技術開発者

同社 電力システム社 放射線治療推進本部
本部長 中村 文人

技術開発者

同社 電力システム社 日立事業所
医療・核装置生産本部 部長 竹内 一浩

開発業績の概要

 近年、癌患者数が年々増加しており、その治療が益々重要になっている。癌の治療は外科治療、化学治療、放射線治療に大別できるが、放射線治療は、体への負担が少なく、患部の機能・形態を温存できる等の特長を備えており、これまで重要な役割を果たしてきた。しかし、従来の放射線治療法は、患部を精細な線量分布で照射することや患部周囲の正常部位の照射量を低減することに課題があり、改善が望まれていた。受賞者らは従来の放射線治療法の課題を抜本的に解決することを目的にスポットスキャニング粒子線治療システムを開発、実用化した。
 開発したシステムでは、粒子線をシンクロトロンで加速し、照射ノズルを備えた回転ガントリーを用い適切な角度から治療台上の患者に照射する。治療に先立ち、患部を仮想的に深さ方向に層分割し、各層には多数の照射スポット(微小体積)を設け、各スポットに照射する粒子線量を定める。治療では、粒子線のエネルギーにより照射する層の深さを制御し、走査電磁石の電流で横方向の照射位置を制御する。照射位置をスポットに定め予定した粒子線量を照射した後、照射を高速停止し、照射位置を次のスポット、あるいは、次の層に変える手順を繰り返し、患部全体を照射する。
 本技術により、位置、サイズ、形状が異なる多種多様な患部に対し治療ニーズに応じて線量分布を精細に制御し、かつ、患部周囲の正常部位への照射も大幅に低減できる。また、粒子線の損失が少なく加速器、回転ガントリーも小型化できる。本開発に基づき商用初のスポットスキャニング陽子線治療システムを米国MDアンダーソンがんセンターに納入、08年5月から順調に治療に適用されてきた。この臨床実績が契機となり、国内外の多数の施設でスポットスキャニング粒子線治療システムの建設が進んでいることから、本技術は世界的に幅広く適用されていく。

図1
図2