市村産業賞

第47回 市村産業賞 貢献賞 -01

高周波弾性表面波デバイス用最適圧電基板42-LT の開発

技術開発者 太陽誘電モバイルテクノロジー株式会社
取締役 上田 政則
技術開発者 同社 設計開発グループ
部長 川内 治
技術開発者 千葉大学 大学院工学研究科
教授 橋本 研也

開発業績の概要

 '90年代に携帯電話用として不要な信号を除去したり送受信信号の分波を行う小型・軽量の弾性表面波(SAW)フィルタやデュープレクサが開発・実用化され、現在のスマートフォンにはこれらのデバイスが多数搭載されている。現在の携帯電話で使用される周波数は700MHz〜2.5GHz帯と高周波である。従来は36度回転YカットLiTaO3基板(36-LT)が開発実用化されていたが、機器の受信感度向上や送信電力の抑制のためには高周波動作のSAWフィルタの低損失化が必須であった。
 SAWデバイスの電極構造を図1に示す。例えば2GHz帯での動作には約1μmの周期で電極を配置する(波長は約2μm)。電極の抵抗損や不要モード低減のために波長の10%程度の電極厚みが必要となる。これまでの36-LTは電極の膜厚の効果を考慮しない場合に最適とされていたもので、受賞者らは電極が厚い場合には最適条件が異なると予想し、詳細な検討を着手した。1994年に橋本らは励振用電極厚さの影響を考慮したSAW伝搬解析ツールを開発し、上田・川内のグループはこれを駆使して理論解析し、実験的検証を実施した。図2に電極厚と結晶方位に対するSAW伝搬損の関係を解析した結果(a)と試作したSAW共振器の共振鮮鋭度Qの実験結果(b)を示す。電極の厚みを考慮した場合、損失が最小となる方位が高角度側に移動し、実証実験によりQが42度で最大となることを発見した。
 受賞者らは開発した42度回転YカットLiTaO3基板(42-LT)を使用し、800MHz帯SAWデュープレクサ、1.9GHzSAWフィルタやSAWデュープレクサ等数々の世界初のデバイスの実用化に成功した。開発した42-LTデバイスの基本特許を取得し、ワールドワイドで複数メーカとライセンス契約を締結している。現在生産されている年間約200億個のSAWフィルタおよびデュープレクサの多くが本開発技術を使用しており、携帯電話・スマートフォン等の移動体通信技術の発展を支えている。

図1

図2