市村産業賞

第49回 市村産業賞 貢献賞 -03

エンジン燃焼室壁温スイング遮熱技術の開発

技術開発者 トヨタ自動車株式会社 エンジン先行設計部
グループ長 川口 暁生
技術開発者 同社 無機材料技術部 金属材料室
主任 西川 直樹
技術開発者 株式会社 豊田中央研究所 機械1部 燃焼・排気研究室
主任研究員 脇坂 佳史
推  薦 一般社団法人 日本自動車工業会

開発業績の概要

 地球環境・資源保護の観点から、エンジン熱効率向上への要求はますます高まっている。その対応のため減らすべきエンジンの各種損失の中で、燃焼室壁から熱が逃げることによる冷却損失の割合は大きく、燃焼室の断熱によりこれを低減する試みは数多くなされてきた。しかしながら断熱壁が常時高温となることで吸入空気を加熱し、出力や排気を悪化させる背反を克服できず、ブレークスルー技術が待望されていた。
 上記背反を解決するため、燃焼室の壁温をガス温に追従させ、常にガス温と壁温の差を小さく保つことで遮熱と吸入空気加熱防止を両立する遮熱コンセプトを考案した(図1)。ここで、壁温スイング遮熱壁、「スイング」とはサイクル中の燃焼室壁温度がガス温度の変化に追従して急速に上昇・下降する現象を示す。壁温スイング遮熱は燃焼室壁面に形成する遮熱膜が低熱伝導率・低体積比熱、すなわち、熱を伝えず、熱しやすく冷めやすいほど大きなスイング幅が得られ冷却損失低減効果が高まるため、この要求物性と、同時に燃焼室壁面材として十分な高温強度を兼ね備えた遮熱膜を開発した。
 薄膜の遮熱材としてアルミニウム合金の陽極酸化皮膜に着目し、ナノサイズの管状の孔に加えて、合金中のSi晶出物を利用して空隙の量を増やすとともに、熱および応力への耐久性を高めるため皮膜にシリカを充填したシリカ強化多孔質陽極酸化皮膜(Silica Reinforced Porous Anodized aluminum:略称SiRPA)を開発した(図2)。SiRPA皮膜を形成したピストンは、通常のアルミピストンに対し冷却損失が低減し、正味仕事と排気損失が増加するというエンジン性能上の効果を、排気・性能の背反なしに実現した(図3)。これは燃費改善と排気後処理触媒の暖機・保温に貢献する。2015年6月、本技術適用のディーゼル車国内販売を開始。2016年7月までの1年強で約15,000台のディーゼル搭載車(当車種全販売数の6割強)を販売、ご好評を頂いている。


図1