市村学術賞

第47回 市村学術賞 貢献賞 -05

オイル中の有害物質を除去・回収できる植物性吸着剤の開発と実用化 研究

技術研究者 大阪大学 大学院工学研究科
准教授 木田 敏之
推  薦 大阪大学

研究業績の概要

 オイル中に混入したポリ塩化ビフェニル(PCB)等の有害物質の除去は、安全・安心で持続可能な社会を形成する為に早急に解決すべき課題である。PCBはコンデンサや変圧器中の絶縁液体としてかつては広く用いられていたが、その毒性ならびに環境への高蓄積性が明らかになり、我が国では1972年に使用が禁止された。しかし、微量のPCB混入絶縁油は現在もなお未処理のまま大量に(50万トン以上、ドラム缶で250万本以上)保管されており、現行の処理法だけでは処理に膨大な時間とエネルギーを要することが問題となっている。
 受賞者は、オイル中に混入したPCB等の有害物質を効率良く除去できる吸着剤として、植物を原料とする環状オリゴ糖‘シクロデキストリン(CD)’に注目した。CDは、そのサブナノメートルサイズの空孔を利用して分子を識別(認識)することができる。このCDの分子認識能は、学術分野のみならず、食品、医薬品、化粧品など工業的にも広く利用されてきたが、その分子認識の大半はこれまで水中で行われており、その一方で、オイル中を含めた非極性場での分子認識については全く実現されていなかった。最近、受賞者は、CDを適切に化学修飾した化合物が、非極性溶媒やオイル中に溶解したPCBと効果的に包接錯体を形成することを見出した。この革新的な発見をもとに、これまで未踏の学問領域であった‘非極性場でのシクロデキストリンによる分子認識の化学’を確立するとともに、これまで困難と考えられてきたPCB汚染オイル中からのPCBの除去・回収を実現できる植物性吸着剤の開発に世界で初めて成功した。さらに、本吸着剤を充填したパイロットスケールのカラム装置を用いて、オイル中のPCBがほぼ完全に除去されることを実証した。また、吸着剤に捕捉されたPCBを収率良く回収できる条件を見出すとともに、本吸着剤が性能の低下なく繰り返し再利用できることを実証した。
 本吸着剤を用いることで、有害物質で汚染されたオイルの処理を省エネルギー的に行うことができるとともに、これまで廃棄物として焼却されていた、有害物質除去後のオイルを再利用することが可能となることから、温室効果ガス排出量の削減につながり、グリーン・イノベーションの推進に貢献できると期待される。

図1
図2