市村学術賞

第51回 市村学術賞 貢献賞 -03

半導体スピントロニクス材料の創製とデバイスの研究開発

技術研究者 東京大学 大学院工学系研究科
教授 田中 雅明
推  薦 東京大学

研究業績の概要

 半導体エレクトロニクスで使われる通常の半導体では、キャリア(電子、正孔)がもつスピンの向きはランダムであるため磁性やスピンの効果は現れず、全く使われていなかった。受賞者は、半導体をベースとした磁性・スピン機能をもつ強磁性半導体や複合ヘテロ構造・多層膜・混晶・ナノ構造などのエピタキシャル成長技術を開発し、磁性と半導体の特長を合わせ持つ様々な新規材料を作製した。また、それらの物性や機能を明かにし、特に大きなスピン依存伝導現象や磁気光学効果などスピン依存現象が、半導体をベースとした複合ヘテロ構造やナノ構造で実現されることを示した。さらにスピン自由度を用いた新しいデバイスを提案・試作・実証し、「半導体スピントロニクス」という新しい分野の構築と発展に大きく貢献してきた。
 21世紀初頭以降、スピン自由度を用いたエレクトロニクス(スピントロニクス)の研究は、世界的に大きな潮流になっているが、受賞者はこのような状況になるかなり以前の1990年代初めから四半世紀にわたって、強磁性金属/半導体、強磁性半導体といった「磁性・スピン」と「半導体」の両方の機能を合わせ持つ薄膜ヘテロ構造やナノ構造の研究を行い、先駆的かつ重要な成果を挙げ、この分野の創造と発展に貢献した。特に、複合エピタキシャルヘテロ構造・ナノ構造やn型およびp型で高いキュリー温度を有する新しい強磁性半導体を創製し、スピントロニクス・デバイスを提案・実証してその応用可能性を示した。これらを含め多くの優れた研究業績により、この分野を牽引し続けている。主な研究業績は下記の通りである。

  • 強磁性体/半導体から成る複合ヘテロ構造の成長、スピン依存伝導、デバイス応用
  • III-V族ベースの強磁性半導体およびその量子ヘテロ構造の作製と物性制御
  • 半導体ヘテロ構造における強磁性転移温度の高温化と電界・光による磁性制御
  • GaAs:MnAsナノ微粒子構造による半導体磁気光学結晶の開発
  • スピントランジスタの提案とシリコン(IV族)ベース・スピントロニクスの開拓
  • IV族強磁性半導体の創成、その物性機能の解明と制御
  • GaAs:MnAs微粒子を含むヘテロ構造における巨大磁気輸送現象の発見
  • 強磁性半導体共鳴トンネルデバイスの作製・動作実証と強磁性半導体のバンド構造とスピン依存トンネル現象の解明ン依存トンネル現象の解明
  • 半導体に磁性不純物を添加し強磁性に転移するとコヒーレンスが増大する現象を発見、量子効果と強磁性を合わせ持つ物性を解明
  • 従来不可能とされていた新しい電子キャリア誘起n型強磁性半導体の創製
  • 狭ギャップ強磁性半導体ヘテロ構造の創成、波動関数工学による磁性制御の実現
  • 新しい狭ギャップ強磁性半導体の創製と室温を超える高い強磁性転移温度の実現