市村学術賞

第51回 市村学術賞 貢献賞 -04

次世代非平衡磁性材料の創製とその応用展開

技術研究者 東北大学 未来科学技術共同研究センター
教授 牧野 彰宏
推  薦 東北大学

研究業績の概要

 軟磁性材料と硬磁性材料(磁石)に大別される磁性材料は、日常生活や社会基盤に不可欠であり、古くから材料科学分野の主要なテーマとして研究されてきた。軟磁性材料は、100年以上前に英国で開発された ケイ素鋼がモータや送電トランスなどの磁心として現在も使用されているが(2兆円規模)、近年、その損失特性改善は飽和状態に達している。現在、軟磁性材料磁心に起因する損失は国内全電力消費量の3.4%で、火力発電所50万kWhクラス7基分、温室効果ガスCO2国内総排出量の1.1%に相当する。今後、自動車などの電動化が急速に見込まれることから、更なる省エネ社会の実現のために、ケイ素鋼を凌駕する新たな低損失軟磁性材料の出現が切望されている。均質なアモルファス相を目指してきた従来の研究と真逆の着想で、特定量、特定比率のPとCuの複合添加効果により高Fe濃度域で特異な超急冷ヘテロ(不均質)アモルファス相を創製し、熱処理後に均質なFe相ナノ結晶組織が形成されることを見出し、高い磁束密度と優れた軟磁気特性(低損失)の両立という、軟磁性材料開発において長年未解決であった根源的な課題を解決した。2009年にケイ素鋼に匹敵する1.8Tの高飽和磁束密度と、ケイ素鋼の1/2から1/10の超低損失を兼備した高Fe濃度-半金属ナノ結晶軟磁性合金(NANOMET®)の開発に成功し(図1)、モータ、トランスで大幅な省エネ化を実証した(図2)。2015年、NANOMET®の社会実装のため官民イノベーションプログラムにて東北大学発第1号ベンチャーを立ち上げ、省エネ社会への貢献を目指している。
 他方、硬磁性材料(磁石)では、現行のネオジム磁石はその基本特許の失効による我が国のアドバンテージ消失や、更なる性能改善が限界に達している状況にあり、数10年毎に新しい材料が出現してきた歴史を鑑みて、発明から35年を経た今、新しい磁石の出現は既に機が熟している。上述の着想を磁石へ展開し2015年秋、数10億年かけて形成された隕石中に極微量存在し、次世代レア・アースフリー磁石として有望視されているL10-FeNi規則相の数時間での人工的合成に世界に先駆けて成功し、硬磁性材料分野において次世代への扉を開いた。

図1

図2