市村学術賞

第52回 市村学術賞 貢献賞 -05

人工衝突体による遠方天体地下掘削技術の実現

技術研究者 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所
宇宙飛翔工学研究系
助教 佐伯 孝尚
技術研究者 同 機構 国際宇宙探査センター 火星衛星探査計画プリプロジェクト
主任研究開発員 澤田 弘崇
技術研究者 日本工機株式会社 研究開発部
開発第1グループチーフ 松崎 伸一
推  薦 国立研究開発法人 宇宙航空研究開発機構

研究業績の概要

 近年、小惑星・彗星などの太陽系小天体探査が国内外で活発化している。日本においても小惑星探査機「はやぶさ」が小惑星「イトカワ」のサンプルを地球に持ち帰ったことで、地球で採取される隕石と、S型小惑星の相関について解明された。一方で、はやぶさの観測とサンプリングは小惑星表面からにとどまり、小天体内部探査の必要性が認識されることとなった。すなわち、小天体の表面物質は長時間の宇宙空間の露出によって宇宙風化するため、表面からのサンプリングだけでは、小天体の素性がわからないという課題に対しての解決法が求められていた。当研究開発によって実用化された衝突体による表面掘削技術は、この課題に対して極めて明確な解決法を与えるものである。
 受賞者らは、はやぶさの後継機である「はやぶさ2」において、自己加速能力を持つ全く新しい小型の可搬型衝突装置の提案・開発を行った。これは、特殊な火工品を使用して瞬時に衝突体を加速するものであり、複雑な姿勢制御装置や誘導装置を用いなくても小天体表面を掘削することができる新しい手法である。さらに、探査機から分離する小型カメラも開発し、掘削によって生成される人工クレータの成長過程を詳細に記録することを可能にした。人工クレータから飛散するイジェクタカーテンを観測することによって、小天体の物理構造の推定も可能となるため、サンプルリターンに頼らない新たな小天体内部構造探査手法が実現できたこととなる。
 2019年4月5日、はやぶさ2は受賞者らが開発した手法によって、直径10メートルを超えるクレータの生成とその成長過程のリアルタイム観測に成功した。本成果は太陽系科学に直接貢献するものであるとともに、資源探査やスペースガードに応用することで、太陽系探査の幅を大きく広げうるものである。

図1

図2