新技術開発助成

楽しく、しつこく、じっくりと ものづくりの価値、日本の技術を変えていく

「ナノMSE試験装置の開発」
第87回(平成23年度第1次)助成

株式会社 パルメソ (新潟県長岡市) 代表取締役 松原 亨さん
“受託試験・開発室で、松原 亨社長(右)と従業員のみなさん
受託試験・開発室で、松原 亨社長(右)と従業員のみなさん

摩耗させながら、材料の強さを測っているね

■世界初、唯一の測定・評価法
 金属をはじめとするあらゆる部品材料の表面、またそこに施した被膜の表面の強さや均一性を高精度・精密に測定・評価する技術の開発は、優れた製品づくりの重要なテーマだ。これまでも材料表面に極細の針を押し込んだ時の弾性や、針でスクラッチ(引掻いていて削る)して 硬さや膜厚を測定する機器が使用されているが、特にDLC(Diamond Like Carbon)やセラミックのような硬質材料、薄すぎる材料、樹脂やゴム等の軟らかすぎる材料の強度測定は困難となっている。さらに昨今進化し続けている薄膜技術によって利用が拡大している、厚さ50μm以下に多層膜を形成するICのような多層超薄膜に求められる表面から深さ方向の強さ分布測定を行う計測器はない。
 MSE(Micro Slurry-Jet Erosion)は、約1μmのアルミナ微細粒子を水と混合し(スラリー)、圧縮気体で0.5o角のノズルから毎秒10億個の微粒子を試料表面に秒速100mの高速で投射・衝突させ、試料のエロージョン(摩耗)進行速度から表面強度を評価する。世界初、唯一の測定・評価法である。
■加工から評価技術開発へ
 そもそもMSEは松原さんが昭和58年に立ち上げた会社で、材料表面加工の研究に携っていた10数年前、福井大学・岩井善郎教授と共同開発した技術。
 「スラリーの投射力を一定にした時、エロージョンの進行速度は各材料の強さに応じて変化する、即ち材料を摩耗させながら材料の強さを測っているね、ということを発見したのです」。投射力一定でエロージョンの深さ測定を繰り返した結果、後に「エロージョン率」という普遍的な数値から材料表面強さを示す新しい指標として確立。類似材料の強さランキング設定を可能にした。これを受け松原さんは平成22年、現行の硬さ、膜厚測定器ではできなかった超硬質、超軟質、超薄膜の表面、深さ方向の強さ分布等を計測・評価する装置開発を目的に(株)パルメソを設立。平成23年に新技術開発財団の助成を得て、加工技術から評価技術開発への本格的スタートを切った。

自動化へ、彫って削り彫って削り

■最初から念頭に置いた「自動化」
 MSE計測は概ね次の工程を経る。まず「摩耗痕生成部」で移動ロボットテーブルに固定した試料表面へのスラリー投射により0.5o角の摩耗痕を生成⇒「水洗・乾燥部」に素早く移動させた材料を洗浄・乾燥⇒「形状計測部」で先端2μmRのダイヤ針による低圧触針式形状計測器がnm精度で摩耗痕の深さを計測⇒「データ処理・出力部」において取得データをエロージョン進行グラフ、エロージョン率分布グラフ等に加工し出力。この材料表面からの精密エロージョン工程の繰り返しにより、材料の強さ比較、強さの断面分布、多層被膜の層毎の厚さや強さ、材料面の強弱分布等々、これまで困難だった多くのデータ取得が可能になった。しかもこれらはオペレーターの設定に従いすべて自動で行われる。
 「構想の最初から念頭に置いたのが自動化です。自動化には個々のプロセス及びシステム全体としての精度がより高いことが不可欠だからです。粒子選択を含め、彫って測り彫って測りの連続でした」。
最初から念頭に置いた「自動化」
試料を固定した移動ロボットアームにより摩耗痕生成部と水洗・乾燥部及び左奥の形状計測部間をスピーディに移動させる データ処理・出力部で取得データをエロージョン進行グラフ、エロージョン率分布グラフ等に加工

■急伸する受託試験事業と装置販売
 助成申請1年後の平成24年に試作機を完成したMSE装置は、翌25年に商品化(装置名:ナノ・エム・エス・イー)を実現。エンジンの摩擦摩耗低減のための硬質薄膜開発を目指す自動車、難加工材や高速切断、長寿命化を図り単層あるいは多層被膜の研究を進める切削工具、一層の高密度化のため、ますます薄膜化が必須な低誘電率絶縁膜の機械的強度計測法を探索する半導体を中心に、光学、樹脂・ゴム、コーティング等の各業界、各種研究機関等から現在主力となっている受託試験事業で月間約30件を受注、装置5台を販売した。

「可能性を創造せよ」を原動力に

■次を見えるようにする、それが技術開発
 「例えば私たちはnm精度の深さの摩耗計測、分解能(最小測定単位)0.5o角の摩耗痕形成を目標に微粒子を開発し、口径0.5oのノズルを完成させましたが、現在は実は1o口径のもので事足りるし、90%以上の表面硬さ・膜厚測定は従来方式で行われています。しかし技術はその延長線上で高度化していっても、それによって生まれた製品の市場拡大に伴って必ずコモディティ化します。技術開発とは、見えなかったものを見えるようにする。今ゼロでも必ずマッチングするものがあると信じ市場を創っていくことと私は考えています。それを楽しく、しつこく、あきらめずじっくりと追求しながらものづくりの価値を変え、日本の技術を変えていく。その意味で "次の新しいことを見る"ための計測・評価の"尺度"=エロージョン率の確立は、この技術の社会的貢献への意義あるポイントになったと思います」。
■次代を拓く材料開発者にぜひ活用を
 近い将来の目標は装置販売年間10台と年商5億円。それに向け「宇宙船内の装置類や太陽電池の被膜、原発の圧力容器、薬品タンク・プラント配管、ビル・橋梁の強度や劣化評価等々で活躍するでしょう。ナノ・エム・エス・イーはそれらの材料開発者にぜひ活用していただきたい」と松原さんが語れば、「受託試験ではパイプ状や複雑形状あるいは未経験の材料は普通で、昆虫の顎の強さ測定を依頼されたこともあります。その都度冶具作り等アイデアを練り、必ずお客様の要望に応えることを使命に取り組んでいます」と若手技術者の勝俣力さんが胸を張る。まさに「可能性を創造せよ」をモットーとするパルメソの原動力だ。
(取材日 2015年12月21日 新潟県長岡市(株)パルメソ)

長岡市巻島の(株)パルメソ社屋
長岡市巻島の(株)パルメソ社屋

(株)パルメソ プロフィール

ウェットブラスト装置専門メーカー・マコー(株)の顧問を務めていた松原氏が平成22年長岡市に(株)パルメソ設立。平成23年福井大学と共同開発したMSE試験法による材料強度計測・評価装置の商品化・事業化を目標に、新潟工業技術試験所の紹介を経て新技術開発財団に助成申請。同24年試作機完成、同25年商品化。当装置による受託試験事業、装置販売事業を展開、業績を急伸させている。従業員10名。