■開発のきっかけは、紅茶と緑茶の茶殻の違い |
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通称カテキンと呼ばれる緑茶成分エピガロカテキンガレート(EGCG)には、ウイルスや菌に対する不活化性能が認められている。株式会社プロテクティアは、カテキンのこの機能に着目し、近年、広い範囲で流行をみせるインフルエンザや感染性ウイルス、細菌などを不活化する高機能な不織布の開発に取り組んでいる。以前、カテキン自体がさほど注目されていなかった時代、緑茶成分に着目したきっかけは、紅茶と緑茶の茶殻に生えるカビの量が、緑茶は著しく少ないという違いだった。2005年、大阪大学内でプロジェクトが発足。開發先生(現・同学特任准教授)がこのカテキンの機能に注目し、研究をスタートさせた。その後、助成を受けながら研究は軌道に乗り、2010年には事業ベンチャーの当社が設立された。2012年、本助成を受けて、製品寄りの研究がスタート。カテキンを酵素触媒反応で改質した「膜親和型カテキン」の合成手法が確立された。
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■優れた抗菌活性を持つ膜親和型カテキンの構造 |
人間が種々のウイルスに感染する仕組みは、ウイルス膜から出るタンパク質が身体に付着することで引き起こされる。ウイルスや菌への有効性が確認されている天然のカテキンは、そのタンパク質にいち早く付着することで競合阻害を起こし感染を防ぐが、結合が弱いためその作用は一時的なものだった。一方、改質された膜親和型カテキンは、安定性で8〜10倍、抗菌・抗ウイルス活性で20〜数百倍と、天然カテキンよりはるかに高い機能を有している。特にインフルエンザに対しては、ウイルスの性質や宿主の変化にも対応できることが特長で、特効薬タミフルやアマンタジンなど薬剤への耐性を持つウイルスに対しても、低濃度で活性が確認できた。ポイントは、膜親和型カテキンに針のように結合された脂肪酸だ。もともとタンパク質に結合しやすいカテキンに加えて、この脂肪酸がウイルスのタンパク質や膜にも付着する。針のような性質を持った脂肪酸がいくつも刺さることで、ウイルス膜の構造自体を破壊し、感染を阻害するのである。
ウイルス破壊の構造
ウイルス膜へのくさびとなる脂肪酸を結合することで、ウイルスや菌に対してアクティブな効果を持っている
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■汎用性の高い感染制御部材の開発へ |
こうして、現在の事業につながる基幹技術を獲得したのち、企業として初めに取り組んだのは、「感染症対策繊維」の開発だった。 田中社長は、「インフルエンザの流行で衛生意識が高まっていましたが、既存のマスクは抗ウイルス性に欠けており、また、アルコールを用いたウェットティッシュには安全面での不安が残っていました。そこで、この膜親和型カテキンの技術を不織布に応用できれば、汎用性がとても高い感染防御部材になるのでは、という狙いがありました」と言う。
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■活性と安定性を両立させる、不織布搭載までの道のり |
高い“志”を持って始まったプロジェクトだったが、膜親和型カテキン搭載の不織布開発には、長い道のりが必要だった。一番のネックになったのは安定性。不織布に膜親和型カテキンを搭載するには、カテキン誘導体溶液に布を含浸しなければならないが、カテキンはもともと分解や酸化のしやすい成分である。この性質をコントロールしながら品質を担保するために、いくつもの種類の繊維、添加剤の試行錯誤が重ねられた。また、安定性を高めると同時に、活性を向上させる部材の開発やカテキンの配置法なども検討された。
「技術基盤となる繊維は、布の開発で繊維メーカー数社と提携し、繊維自体は本助成により自社で開発。また、カテキン原料の提供では、食品素材メーカーにお世話になっています。安定性を高めつつ、活性を生み出す。この両方を実現した溶液組成の完成が、大きなターニングポイントだったと思います」と、田中社長。
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