新技術開発助成

安全・安心なカテキン搭載技術で ウイルスのない生活環境を実現したい

「ウイルス・細菌を不活化できる“膜親和型カテキン”搭載不織布の開発」
第89回(平成24年度第1次)助成

株式会社プロテクティア (大阪府茨木市) 代表取締役社長 田中 伸幸さん
田中伸幸社長(左)と従業員のみなさん
田中伸幸社長(左)と従業員のみなさん

ウイルス不活化能と安全性を両立した膜親和型カテキンの誕生

■開発のきっかけは、紅茶と緑茶の茶殻の違い
 通称カテキンと呼ばれる緑茶成分エピガロカテキンガレート(EGCG)には、ウイルスや菌に対する不活化性能が認められている。株式会社プロテクティアは、カテキンのこの機能に着目し、近年、広い範囲で流行をみせるインフルエンザや感染性ウイルス、細菌などを不活化する高機能な不織布の開発に取り組んでいる。以前、カテキン自体がさほど注目されていなかった時代、緑茶成分に着目したきっかけは、紅茶と緑茶の茶殻に生えるカビの量が、緑茶は著しく少ないという違いだった。2005年、大阪大学内でプロジェクトが発足。開發先生(現・同学特任准教授)がこのカテキンの機能に注目し、研究をスタートさせた。その後、助成を受けながら研究は軌道に乗り、2010年には事業ベンチャーの当社が設立された。2012年、本助成を受けて、製品寄りの研究がスタート。カテキンを酵素触媒反応で改質した「膜親和型カテキン」の合成手法が確立された。
■優れた抗菌活性を持つ膜親和型カテキンの構造
 人間が種々のウイルスに感染する仕組みは、ウイルス膜から出るタンパク質が身体に付着することで引き起こされる。ウイルスや菌への有効性が確認されている天然のカテキンは、そのタンパク質にいち早く付着することで競合阻害を起こし感染を防ぐが、結合が弱いためその作用は一時的なものだった。一方、改質された膜親和型カテキンは、安定性で8〜10倍、抗菌・抗ウイルス活性で20〜数百倍と、天然カテキンよりはるかに高い機能を有している。特にインフルエンザに対しては、ウイルスの性質や宿主の変化にも対応できることが特長で、特効薬タミフルやアマンタジンなど薬剤への耐性を持つウイルスに対しても、低濃度で活性が確認できた。ポイントは、膜親和型カテキンに針のように結合された脂肪酸だ。もともとタンパク質に結合しやすいカテキンに加えて、この脂肪酸がウイルスのタンパク質や膜にも付着する。針のような性質を持った脂肪酸がいくつも刺さることで、ウイルス膜の構造自体を破壊し、感染を阻害するのである。
ウイルス破壊の構造

ウイルス破壊の構造
ウイルス破壊の構造
ウイルス膜へのくさびとなる脂肪酸を結合することで、ウイルスや菌に対してアクティブな効果を持っている


■汎用性の高い感染制御部材の開発へ
 こうして、現在の事業につながる基幹技術を獲得したのち、企業として初めに取り組んだのは、「感染症対策繊維」の開発だった。 田中社長は、「インフルエンザの流行で衛生意識が高まっていましたが、既存のマスクは抗ウイルス性に欠けており、また、アルコールを用いたウェットティッシュには安全面での不安が残っていました。そこで、この膜親和型カテキンの技術を不織布に応用できれば、汎用性がとても高い感染防御部材になるのでは、という狙いがありました」と言う。
■活性と安定性を両立させる、不織布搭載までの道のり
 高い“志”を持って始まったプロジェクトだったが、膜親和型カテキン搭載の不織布開発には、長い道のりが必要だった。一番のネックになったのは安定性。不織布に膜親和型カテキンを搭載するには、カテキン誘導体溶液に布を含浸しなければならないが、カテキンはもともと分解や酸化のしやすい成分である。この性質をコントロールしながら品質を担保するために、いくつもの種類の繊維、添加剤の試行錯誤が重ねられた。また、安定性を高めると同時に、活性を向上させる部材の開発やカテキンの配置法なども検討された。
 「技術基盤となる繊維は、布の開発で繊維メーカー数社と提携し、繊維自体は本助成により自社で開発。また、カテキン原料の提供では、食品素材メーカーにお世話になっています。安定性を高めつつ、活性を生み出す。この両方を実現した溶液組成の完成が、大きなターニングポイントだったと思います」と、田中社長。

安全・安心な製品には『カテプロテクト』、これが理想です

■膜親和性カテキン搭載製品で市場ニーズに応える
 着想から9年の歳月を経て2014年には、膜親和型カテキンを搭載した第一号製品『ここ一番のマスク カテプロテクター』がついに発売される。膜親和型カテキンが持つ抗菌・抗ウイルス性能を、そのままマスクに実現した当製品は、インフルエンザやノロウイルスなど合わせて20種類を超えるウイルスに対して効果を発揮する。こうした高い汎用性は、いままでの数ある既存の抗ウイルス繊維にはないものだ。毎年のように人や鳥のインフルエンザが猛威をふるう昨今、市場ニーズに対して当製品の持つ可能性は限りなく大きい。事実、プロテクティアの抗菌・抗ウイルス関連事業の売上げは右肩上がりで、大手企業とのプロジェクトも多く進行している。

■ウイルスのない世界へ、安全なブランドイメージを高める
 プロテクティアは既に次の展開を見据えて、様々な課題の解決に日々取り組んでいる。ひとつは商材のさらなるアピールだ。膜親和型カテキンの高い能力は伝わりづらい。そこでカテプロテクト不織布の抗ウイルス性をアピールできるように、繊維業界団体である繊維評価技術協議会(SEK)が2015年に開始した抗ウイルス加工マーク制度に申請したところ第一例目として認証を受け、世界初の抗ウイルス加工マーク搭載マスクの実用化を果たした。また、マスク以外の展開にも積極的に動いている。たとえば、乾式製品とは別の、ウェットティッシュや加湿器用添加剤といった湿式製品である。技術課題がクリアできれば、将来的には水溶液や化粧品分野での幅広い応用が可能だ。こうした膜親和型カテキンを搭載した商品群は『カテプロテクト』と称され、安心・安全なブランドイメージ構築に役立っている。「弊社は、マスク屋さんではなく“カテキン屋”で、カテキンを売ることが重要です。現在はまだ2製品にしかカテプロテクトが入っていませんが、将来的には世界中でカテプロテクト配合製品が認知され、ウイルスに悩まない世界をつくることが大きな目標ですね」と、田中社長は展望を語った。
(取材日 平成29年1月19日 大阪府茨木市・(株)プロテクティア)

抗ウイルスマークをつけたマスクの第一号製品
抗ウイルスマークをつけたマスクの第一号製品

(株)プロテクティアが入居する大阪大学 産業科学研究所
(株)プロテクティアが入居する大阪大学 産業科学研究所

(株)プロテクティア プロフィール

2010年(平成22年)、大阪大学でのカテキン研究の成果を元に、実用化を目指す研究開発型ベンチャーとして設立。翌年から研究開発費支援を受け、2013年、膜親和性EGCG『CateProtect(カテプロテクト)』加工不織布の開発に成功。2014年、カテプロテクト搭載第一号製品としてマスクを発売。以降、感染症対策部材の研究開発・製造・販売を事業の柱に据え、カテキン誘導体の抗ウイルス効果を実用化する多数のプロジェクトに参画している。従業員数4名。