新技術開発助成

REC鋳造技術の標準化で、 アルミ製造の業界革新を目指す高度プロ集団

「革新的新アルミニウム鋳造法による複雑形状の高寸法精度・高強度化技術の開発」
第90回(平成24年度第2次)助成

株式会社木村工業 (広島県) 代表取締役社長 木村 秀樹さん
REC鋳造機の前で、木村秀樹社長(中段右から2番目)と東広島工場のみなさん
REC鋳造機の前で、木村秀樹社長(中段右から2番目)と東広島工場のみなさん

従来製造法のメリットを併せ持つ、革新的なアルミニウム鋳造法

■自動車産業を中心に需要増の精密アルミ製造技術
 軽量なアルミニウム部品の製造には、ダイカスト(鋳造)法と、固体金属に圧力をかけて成型する鍛造法に大別され、要求される品質や生産コストによって使い分けられている。ダイカスト法はアルミ溶湯を金型内に高速射出して急速充填するため、少ない工程で高精度の製品を大量に生産できるが、射出時に巻き込んだ空気による内部欠損が問題視されており、品質と生産性を両立する製造方法が求められていた。木村工業が開発したREC(Revolutionary Eco-Casting)製法は、ダイカスト法と鍛造法の長所を併せ持つ、まったく新しい革新的なアルミ製造法である。
■地域のパートナーシップが開発の弾みに
 REC製法の原理は1980年代から、金型製造会社が研究していたが、この企業は高度な金型を製造する技術は持っていたが、それに伴う高度な油圧式鋳造装置を作る技術は持っていなかった。そのため5年以上にもおよぶ開発を止めようとしていた。そんな中、両社とも取引のあった商社がこの企業と木村工業を結び付ける。木村社長は、「この新しい金型製法を用いた油圧式の鋳造装置を開発すれば、絶対に世の中で役立つ製品を生み出す事が出来るのに、ここで開発を止めてしまうのは勿体無いと思い、油圧装置が専門の弊社が手を上げた」と、当時の経緯を振り返る。それまでの木村工業は、自動車・造船・製鉄・環境業界向け生産設備(主に空圧・油圧装置)の設計製作が中心だった。まったく新しい装置の開発・設計では、様々な公的専門機関や専門大学、産業振興センターなどとのパートナーシップが鍵となる。REC製法の開発でも、こうした機関から「ぜひ木村工業がやるべきだ」と激励され、開発に弾みがかかったと言う。木村社長は、開発途中の設備を自社で引き取り、まずは産業技術振興センター主導で、産学官連携で進める三カ年計画のサポイン事業(戦略的基盤技術高度化支援事業)に取り組むことになった。

手探りから確立したREC製法の要(かなめ)

■開発は「鋳造とはなにか」から始まった
 結果的に、初期の研究・開発期間を含めて22年後、サポイン事業の中で試行錯誤を繰り返し、事業終了時の平成23年には経済産業省の局長賞を受賞する。それまでには、様々な試練があった。最初は、初期の研究スタッフの助けを借りながら、実質的にはゼロから開発が始まった。木村工業にとって、鋳造装置の開発は初の経験。 “アルミ鋳物はなにか”という段階から学び直す必要があった。「鋳物のことに限らず、人員の配置や工程間など“いかにスムーズに動かすか”という観点も必要でした。特に保守の面では、壊れては修理の繰り返しで鋳造装置の経験値を高めていきました」と木村社長。
■2方向3段加圧により鋳巣(ちゅうそう)を激減
 こうした試行錯誤の末に完成したREC製法の肝となるのが、「溶湯鍛錬法」だ。アルミ製品の鋳造法で一般的なダイカスト法では、通常はピストンでアルミニウムの溶湯を射出して成型する。REC製法では製品部に溶湯を押し込む「型締共用の注湯加圧シリンダ」と、アルミの鍛錬を行う「製品加圧シリンダ」の二つを設けるという画期的な三分割の金型構造を採用。溶湯を金型に充填後、アルミが凝固していく環境下で全体を直接加圧(2方向3段階加圧)するため、微量に巻き込んだ小さな空洞(鋳巣)も潰され、製品密度が増しガスも最小限に抑えられる。自動車業界などでは軽量化が進む中、鉄製部品からアルミ製部品への代替が強く望まれている。そのため、鉄製同等の強度を実現するためには、鋳物内の鋳巣を少なくする事が大きな課題であった。これまで様々なアルミ鋳造製品に挑戦してきた経験から複雑形状の強度部品も対応可能である。また、鋳造欠陥の発生防止は生産性の向上にもつながる。高品質かつ高強度の部品製造をダイカスト並みの低コストで実現し、鋳造1サイクル約30〜60秒と速いのが特長。また、REC製法では溶湯を自然の原理で層流充填させるため射出装置が不要で、品質レベルは従来の成型法に勝っている。

2方向3段加圧により鋳巣(ちゅうそう)を激減

革新技術を将来の産業界へつなぐ

■高度なアルミ製造の駆け込み寺
 事業化から12年、REC製法は業界内にも大きなインパクトを与え、多くの受賞実績も誇る。それと共に増加したのが、自動車および弱電業界など多数のメーカーからの、既存アルミ鋳造メーカーでは対処が困難な新規製品の試作依頼。いわば木村工業はREC製法を求めてクライアントが訪れる“駆け込み寺”である。「試作案件の多くはメーカーさんが困っている鋳造製品がほとんどなので、従来の工程より高コストになり、商品利益が出せるかが課題です」と木村社長。鉄からアルミに変えることでの軽量化の期待は高いが、強度や軽さに要求される品質基準がその時々なので、コストパフォーマンスの判断には注意を要する。木村工業では、工程を変えるロスや、鋳造品の市場価値を勘案しながら、競争力のある製品づくりを目指している。
■目指すは技術の標準化による将来へつなぐ活用
 さらに、木村工業ではREC技術の標準化にも取り組む。まったく新しい設備で新製品を造る中、蓄積される世の中に存在しないノウハウ。また、製造工程での担当者頼みだった微妙なサジ加減や経験。これらを書類上だけではなく、すべてデータ化して残している。目指すのは誰もがREC設備を扱えるようなシステム化。平成22年にはREC鋳造機の販売実績も生まれ、将来的に販路拡大も見据えている。「国や財団等の資金で開発させてもらったものを、弊社だけのものにするのではなく、我々の強みをデータ化し残すことで、他企業も活用できるようにするのが理想だと考えています」と、木村社長は将来を語る。常に新しいもの作りに挑戦してきた気風そのままに、新たな技術標準が結実しつつある。
(取材日 平成28年8月31日 広島県東広島市・(株)木村工業)

REC製法で高密度化が実現、特性が向上した製品
REC製法で高密度化が実現、特性が向上した製品

(株)木村工業・東広島工場の社屋
(株)木村工業・東広島工場の社屋

(株)木村工業 プロフィール

1968年、現会長・木村剛氏が広島県呉市に木村鉄工所を創立。製鉄・造船業界の部品加工等を手掛ける。1988年、株式会社キムラ(販売部門)設立、のち全国に営業展開。2004年、創業者長男・木村秀樹氏が、有限会社木村工業(製造部門)の代表取締役社長に就任。2006年、株式会社木村工業へ組織拡大。東広島工場を取得、新アルミ鋳造技術(REC製法)を開発、世界初のRECアルミ鋳造装置1号機を完成。現在、REC製法を基盤に、産業機械装置の開発・製造分野で急成長中。グループ従業員数約80名。