新技術開発助成

透水、保水の法面保護技術で、自然災害からインフラを護る

「集中豪雨から社会インフラを護る石炭灰を活用した法面工法の開発」
第92回(平成25年度第2次)助成

株式会社くりんか (福岡県) 代表取締役社長 楳木 忠秋さん
楳木忠秋社長(右から2人目)、楳木真一副社長(右端)と従業員の方々
楳木忠秋社長(右から2人目)、楳木真一副社長(右端)と従業員の方々

高い透水力と保水性を法面工法に応用した『くりんかロード®』

■石炭灰の有効活用が開発のきっかけ
 石炭火力発電所から出てくる産業廃棄物が石炭灰だ。石炭灰はフライアッシュ(集塵される粉塵灰)とクリンカアッシュ(炉内に溜まる燃えがら)に大別されるが、(株)くりんかが開発した『くりんかロード』は、クリンカアッシュを骨材に100%利用する。同社は前身「環境緑化保全コンサルタント」の時代から、雨水流出・ヒートアイランド対策などを目的に、通行路・平野部の鉄塔敷地での『くりんかロード』施工を基盤事業としてきた。法面工法の開発に際し、『くりんかロード』同様にクリンカアッシュの有効活用を第一と考えた。クリンカアッシュの特長は、多孔質で吸水性に優れており、その性能は先行技術である『くりんかロード』で証明され、既に十分な実績を重ねていた。

■送電鉄塔の表土流出を抑える技術
 最近では、2017年7月に福岡県朝倉市一帯で1時間に100ミリ以上の集中豪雨が数時間降り、大災害が発生した。水害で鉄塔周囲の緑地には亀裂が入り、崩れた土砂が隣接地に流れ込んだ。近年、ゲリラ豪雨の被害は日本全国に広がり、同業他社でも高速道路上に施す排水性舗装など類似の技術は開発されているが、透水性だけで舗装内に水を溜める保水力に乏しい。一方、『くりんかロード』は舗装内に、最大体積の50%にもおよぶ雨水を保水可能だ。楳木社長は、「九州を縦横に走る電力送電幹線の鉄塔群は山間部に立ち、以前から地質や気象環境の変化で既存工法による保全が徐々に厳しくなっている。『くりんかロード』の圧倒的な透水力と保水力を、山間部での表土流出抑制工法に活用できないかと考えた」と、開発の経緯を振り返る。

『くりんかロード』の活用による社会インフラへの公益性
『くりんかロード』の活用による社会インフラへの公益性


舗装から土木へ、地形・地質によって様々な工法が確立

■機能バランスと材料配合の見極めで優位性を確保
 こうして、先行し普及している『くりんかロード』開発時の実験結果や現場の運用実績を元に、法面工法への応用に着手。強度と保水性の機能バランスをどのように保つか、その材料配合の見極めに苦労したものの、約半年後には『くりんかロード工法舗装 D工法 法面保護(通称:くりんかロード 法面保護)』の完成にこぎつけた。従来の山間部工法と比較し、高さ100mを超える幹線鉄塔からの落水衝撃に耐えつつ、雨水を瞬時に透水かつ多量に保水したのち緩やかに排水し、地盤への影響を最小限に抑えられる優位性を持っている。

■利便性や地形に左右されない保水力を発揮
 『くりんかロード 法面保護』は、山間部の複雑な地形に柔軟な対応をするためのバリエーションをそろえ、斜面傾斜角に応じた三つの施工法が開発された。一つ目は、緩傾斜地向けに製造プラントを設置して施工するタイプ。二つ目が「プレキャスト平板」で、あらかじめクリンカアッシュを使ったブロックを製造し、現地での可搬性や施工性を高めたタイプ。これは、製造プラントが設置できない狭小地や、傾斜がややきつい場所で利便性を発揮する。三つ目が「土のう」充填タイプ。土のう袋に『くりんかロード』で配合する混練物を充填、急傾斜地に設置する。固化すると城の石垣のようになり、擁壁と保水の役割を同時に果たすことが可能だ。

「プレキャスト平板」。現場打ちが困難な場所に敷設する
「プレキャスト平板」。現場打ちが困難な場所に敷設する
「土のう」充填タイプ。急傾斜地で威力を発揮する
「土のう」充填タイプ。急傾斜地で威力を発揮する

夢は将来の循環型ビジネスモデルの礎になること

■既存技術との融合で日向幹線の鉄塔を護る
 『くりんかロード 法面保護』は、すでに九州各地で成果を挙げている。その好例が、九州電力の進める大分県から宮崎県まで120kmを結ぶ送電線ルート、日向幹線だ。5年計画の工事後、九州全域にループ状送電網が完成し、電力の安定供給を実現する大プロジェクトだが、その中で『くりんかロード 法面保護』の果たす役割は非常に重要だ。「山岳地帯は大雨が降れば当然、多量の出水があり、そんな場所での人工的な石積みや擁壁は自然に反する。大切なのは自然の地形に逆らわず、山の本来の植生を利用することです」と、楳木社長。日向幹線の鉄塔でも、水が集中する脚元には、毎時50ミリの雨量に約1時間耐えられる同工法を施工するが、その周囲に植生土のうを設置し、敷地内への水の侵入を防ぐ。長年の土木分野の知見と最新技術の融合が、現場で高い評価を得ており、今後、建設される約300基の鉄塔にも採用が決まっている。

■国内外に拡がる“くりんかスタイル”
 着想から約5年で『くりんかロード 法面保護』は完成したが、研究が進むにつれ課題も見つかり、日々改善と見直しを行っている。今、会社の目標は国内外の『くりんかロード』シリーズ普及へ向かい、九州環境エネルギー産業推進機構や一般財団法人石炭エネルギーセンターなどの力も借りて、石炭灰リサイクルをより高付加価値な技術に進化させようと努めている。特に海外では、ベースロード電源を石炭火力に依存するASEAN地域の需要が見込まれる。高温多湿な地域で経済成長も顕著なため、公園や歩道など公共インフラを多く必要とし、『くりんかロード』の多機能性が発揮されるはずだ。また、労働人口も豊富で、人力施工の『くりんかロード』は雇用対策になる。
 「技術の蓄積で『くりんかロード』をより進化・洗練させ、電力会社から出た石炭灰の大半は付加価値の高いリサイクル製品へ使うスタイルに貢献したい。この事業が、日本にとどまらずアジア全域に広まり、持続可能な環境未来都市造りの一助となることが夢です」と、楳木社長とご子息の副社長は将来を語った。
(取材日 平成29年9月27日 福岡県宗像市・(株)くりんか)

(株)くりんか・福岡本店
(株)くりんか・福岡本店

(株)くりんか プロフィール

2009年4月、楳木忠秋社長が、株式会社環境緑化保全コンサルタントを設立。敷地保全事業(敷地調査設計、敷地保全対策工事)を中心に手がける。近年多発するゲリラ豪雨による雨水流出対策や、住環境の変化にも対応した新しい多機能舗装の実験を繰り返す中、石炭焼却灰(クリンカアッシュ)を活用する特許技術『くりんかロード®』を開発。それに伴い2017年5月、「株式会社くりんか」に改称。透水性と保水性を兼ね備えた技術で、世界へ向けて事業拡大中。従業員約20名。