植物研究助成

植物研究助成 18-15

環境評価のための統計干渉法による植物のナノメータ生長応答計測装置の開発

代表研究者 埼玉県環境科学国際センター 研究所
研究所長 門野 博史

背景

 近年の急速な工業の発展により、大気汚染、水質汚染、土壌汚染など人間を含む動植物を取り巻く環境は著しく悪化している。したがって、環境が生物の生長に与える影響を正確に計測する技術の確立が望まれる。従来、植物の生長量は寸法測定や乾燥重量の測定から見積もられるが、従来法はいずれも長期間にわたる積分値でしかなく不十分である。

目的

 従来法に対して、申請者はこれまでに、レーザー光のランダムな散乱場(レーザースペックル)の統計的性質を基準として利用するという全く新しい原理に基づく超高感度な干渉計測法である統計干渉法を提案し研究を行ってきた。本方法では光の波長の数百分の1から数千分の1すなわちサブナノメートルの計測精度が達成されている。本研究では統計干渉法を植物の生長計測に応用し、秒オーダーの極短時間での植物の生長応答をサブナノメータ(10-10m)の精度で計測する装置を実用化し、最終的に環境汚染状況を植物を通して推定するツールとしての可能性を評価する。

方法

 統計干渉法を実用的な植物生長計測手法として確立するための装置開発と実証研究を行う。継続研究の2年目として、精度を保ちつつダイナミックレンジを数ミクロンにまで拡大するための、新たなデータ取得アルゴリズムを開発し、その有効性を検証する。これにより植物生長を長時間にわたり詳細に観測することが可能となる。この結果を基に、生長のナノメータ揺らぎ現象の起源に迫りたい。新たに構築したコンパクトな可搬型生長計測システムを用いて実際に植物の生長を種々の環境条件下で測定し、計測システムの有効性を実証する。環境条件として、オゾンストレス下のニホンアカマツの葉の生長挙動を根の菌、根菌への感染の有無に注目して詳細に調べる。また、CO2濃度の生長挙動への影響に関しても調べる。植物の栽培環境条件の設定は、現有の植物自動栽培装置を用いておこなう。

期待される成果

 一般に、光干渉法は工業計測として用いられる方法であるが、本研究ではこのような光計測技術を生物試料へ適用するものであり新しい試みである。また、植物と環境との関連を、これまで解明されたことのない極短時間のスケールすなわち秒・分単位で明らかにするための計測システム開発に特色がある。植物の研究手法としてこのような技術はこれまでに例がなく、全く新しい植物の挙動が明らかになると期待される。この効果は、本研究で目指す環境の植物に対する影響の問題だけでなく、広く植物に関する基礎研究から農業分野に波及可能である。