植物研究助成

植物研究助成 19-01

「伊豆半島植物誌」のためのデータベース構築と地球温暖化の影響評価

代表研究者 神奈川県立生命の星・地球博物館
主任学芸員 田中 徳久

背景

 地域の植物相の把握は、その地域の植物の生育環境の解析のための基礎資料として重要なものである。しかし、伊豆半島の植物相についてのまとまった報告は、『静岡県植物誌』(杉本, 1984)や『伊豆の植物』(杉本, 1962)があるのみで、近年の分類学的な知見を反映した包括的な植物誌はいまだ作成されていない。特に、植物研究園の位置する熱海市を中心とする伊豆半島北部は、生物学御研究所編(1980)をはじめとし、近田ほか(2006)などの報告がある半島南部に比べ、その詳細な植物相の把握が必要な地域である。
 さらに、近年の地球温暖化の影響評価において、小地域の植物相の詳細な把握は必要不可欠で、今後の長期間の継続的な変化を解析するための基礎資料としても重要である。

目的

 本研究の目的は、『伊豆半島植物誌』(仮称)作成のためのデータベースを構築し、その一助をなし、その分布情報を解析することで、近年の地球温暖化の影響評価を試みることである。

方法

 神奈川県立生命の星・地球博物館の所蔵標本データおよび文献資料により伊豆半島産維管束植物のデータベースを整備する。さらに、植物研究園を活用し、熱海市および周辺地域の植物相調査を進め、標本資料の収集とデータベース化を進める。また、その過程ではデジタルカメラを用いて植物の生育状況を記録し、同時にGPSによる位置情報とともに蓄積する。さらに、その分布データを解析し、気候(特に気温)要因により分布を規定されている種群を抽出し、地球温暖化の影響評価を行う。

期待される成果

  本研究によって構築された『伊豆半島植物誌』データベースは、地球温暖化の影響評価の基礎資料を提供するに留まらず、当該地域の植物の生育環境の解析や群落研究のための有用な情報となる。さらに、これらの研究分野だけでなく、自然環境保全や環境教育活動においても、その基礎資料となり、地球温暖化だけでなく、人為的な自然環境の改変に際し、今日的な"自然"の記録となり、今後の比較検討のために有用である。
  また、自然科学的な研究成果としては、本研究の過程で、未知の分類群の捕捉や分類学的な問題を含有する分類群の把握など、植物分類学的な分野への貢献の可能性もあり、隣接する神奈川県の植物相との比較において、その植物地理学的な位置づけの再検討が可能となる。