植物研究助成

植物研究助成 19-02

伊豆半島におけるシャジクモ藻類の多様性と種分化機構の解析

代表研究者 日本女子大学 理学部
准教授 関本 弘之

背景

 我々は、これまでシャジクモ藻類綱に属するミカヅキモ、シャジクモを主な研究対象として、有性生殖機構の進化と種分化との関係について研究してきた。研究にあたり、これまでに系統保存されている株の他、新たに国内外のフィールドから細胞を単離して研究に用いてきたが、過去に存在が報告されていた多くの種の生息がすでに確認できなくなってしまったことが明らかになった。またミカヅキモの一部を除き、微細なシャジクモ藻類の多くは、系統保存すらされていないのが現状である。陸上植物の場合、過去の採集報告なども多く、ある程度明確に生育状態の変化を把握しうるが、水中に生育する藻類では、採集記録すら少なく、知らず知らずのうちに、多くの種が絶滅の危機に直面していることにもなる。そこで、水田、湿地など多様な水質の天然フィールドを含む伊豆半島で、シャジクモ藻類の分布調査と保護を進める必要が生じてきた。

目的

  本研究では、植物研究園を拠点とし、伊豆半島一帯におけるシャジクモ藻類の分布状況を調査し、実際に生物材料の単離、系統株の確立も進め、多様性保全に努めることを主な目的とする。また、単離された系統株の分子系統関係を解析し、ミカズキモを中心にシャジクモ藻類の種分化の実体について取り組む予定である。

方法

 1)湿地、湖沼を中心に、伊豆半島一帯から、水サンプル、および土壌サンプルを順次回収し、その中に含まれる微細なシャジクモ藻類の種類とそれぞれの存在頻度を調査する。2)採集した藻類について、ピペット洗浄法を用いて単藻化して、系統株を確立する。3)携帯に基づく種同定を行うとともに、 18S rDNA、rbcl遺伝子などを利用し、分子系統解析も進める。

期待される成果

 本研究は、多くのシャジクモ藻類の生育状況を把握できるのみならず、系統株確立を通して、絶滅の危機からの保護にも貢献することとなる。また、得られた株の分子系統解析を進めることにより、単なる調査・保護に留まらず、シャジクモ藻類の進化の道筋が明らかになることも期待される。最近の分子系統学的研究により、ミカヅキモやシャジクモを含むシャジクモ藻類綱から陸上植物が進化してきたことが明らかにされているが、陸上植物が、接合藻類、シャジクモ類、コレオカエテ類のいずれと最も近縁であるかについては、未だに議論が続いている。本研究により、分子系統解析に用いる種数が大幅に増加することは、陸上植物の直接の祖先を解明することにも極めて重大な貢献をすることと期待される。