植物研究助成

植物研究助成 19-03

ウバメガシのモノペルテン放出に関する種内変異の解明

代表研究者 静岡県立大学 環境科学研究所
准教授 谷 晃

背景

 植物の中には二次代謝物としてモノペルテン類を恒常的に生産するが、貯蔵機関を持たないモノテルペン非蓄積・放出物質が数種存在する。この場合、モノテルペンは生産後直ちに放出される。このタイプの植物種はヨーロッパの地中海沿岸に自生するコナラ属のQuercus ilexなど数種しか報告例が無かったが、申請者らは、東アジアに自生するコナラ属のウバメガシが貯蔵機関を持たずモノテルペンを大量に放出することを突き止めた。

目的

 本研究の目的は、東アジアで初めて見つかったモノペルテン非蓄積・放出植物であるウバメガシの特異なモノペルテン放出特性を解明することである。具体的には以下のようになる。
(1) 自生地の伊豆半島、大隈諸島(変種:ケウバメガシ)、中国浙江省山岳地帯および植物研究園植栽地で測定し、モノペルテン放出特性の地理的変異を調べる。
(2) 増殖した無放出個体と放出個体の、土壌塩分、塩水の葉面散布、乾燥など環境ストレスに対する耐性を調べる。

方法

 平成22年度は(2)の研究を中心に実施する。モノペルテン生産能力がないクローン植物30個体を用いて、土壌塩分、塩水の葉面散布、乾燥など環境ストレスに対する耐性を放出個体と比較する。同時にモノペルテン放出速度や、葉内の前駆物質濃度やモノペルテン合成酵素活性を測定し、環境ストレスによる変動を調べる。(1)に関しては、伊豆半島の自生地(妻良)で昨年測定した10個体から無放出種1個体が見つかったため、さらに測定個体数を増やし無放出個体の地理的分布を調べる。無放出種の生育環境にどのような地理的特異性がみられるか検討する。

期待される成果

  植物がイソプレンを生産する理由として、高温とオゾンに対する防御が示唆された(Loreto, et al., 2001)。これまでの測定で中国のウバメガシはモノペルテンを生産しないことが分かっている。日本のウバメガシがモノペルテンを生産し、直ちに放出するという生理作用が、塩分、乾燥などの環境ストレスに対する防御機構と関係あるかどうか検討することは、この植物の大陸での進化と、日本列島内での進化の違いを類推する手掛かりになる。また、中国、日本両国にとって重要な樹木であるウバメガシを保護し、造林するための基礎データを提供できる。
文献 Loreto, F., et al., 2001, Plant Physiol., 126, 993-1000.