植物研究助成

植物研究助成 19-04

伊豆地方の常緑樹と虫こぶ形成昆虫の多様性、および、地球温暖化の影響評価

代表研究者 九州大学 高等教育開発推進センター
助教 徳田 誠

背景

  地球温暖化による生物の分布域の変化や、侵略的外来生物による生態系の撹乱が世界各地で問題となっている。樹木の分布や群落は数年では変化しないが、それを利用する昆虫類は分布拡大速度が速く、かつ、わずかな環境の変化で急激に増殖することがある。したがって、自然環境保全や緑地の育成・維持のために重要な研究対象である。
 伊豆地方は、生物地理学上の重要性に加えて、植物と昆虫の関係を通した環境変化を調べる上でも興味深い地域である。過去の伊豆諸島における虫こぶ形成昆虫の分布記録があるため、30年前と現在との比較研究が可能である。そして、我々は最近、伊東市で虫こぶ形成昆虫の新種を発見しており、今回の本格的な調査によって、伊豆地方の生物多様性が一層解明されると考えられる。

目的

 伊豆地方の常緑広葉樹と、それを利用する虫こぶ形成昆虫を対象に、以下の点を明らかにする。
1. 各島の面積や本州からの距離と生物多様性:伊豆半島と各島間で、常緑樹の密度や遺伝的変異、虫こぶ形成昆虫の多様性、および、虫こぶ形成昆虫の天敵である寄生バチの種構成はどのように異なっているか
2. 地球温暖化と生物の分布変化:伊豆諸島における虫こぶ形成昆虫の分布や密度は、30年前(1978〜1980年)の調査と比較して、どう変化しているか。

方法

 虫こぶが形成された葉は樹上に3〜5年残存し、1つの虫こぶには1匹の虫が入っているため、当年葉と過去の葉を調査することにより、過去数年間の昆虫密度の変動を一度に調査可能である。ただし、種によって発育時期が異なるため、初夏と秋の2回調査を行い、DNA解析用の新鮮なサンプルを得る。初夏の調査ではアオキ、ネズミモチやハチジョウイボタ、タブノキなどを、秋の調査ではイヌツゲ、マサキ、シロダモ、ヤブツバキなどを対象として、昆虫の空間分布や密度変動を調査する。一部の虫こぶは研究室で飼育し、天敵寄生バチの種数など、常緑樹上の昆虫群集の多様性を明らかにする。DNA解析により、伊豆半島と各島における常緑樹と昆虫の遺伝的多様性を明らかにする。

期待される成果

  常緑広葉樹やそれらを利用する昆虫類は多様性解析により、伊豆地方の生物地理学的特長が明らかになり、新種や新記録種の発見など、伊豆地方の生物相の解明が大きく進展する。また、30年前と現在との虫こぶ形成昆虫の分布を比較することにより、地球規模での温暖化が伊豆地方の植物や昆虫にどのような影響をもたらせているかを明らかにできる。