植物研究助成

植物研究助成 19-07

伊豆・三浦半島固有キク科植物のセスキテルペン環化多様性に関する研究

代表研究者 横浜市立大学 木原生物学研究所
教授 村中俊哉

背景

 キク科植物には、「セスキテルペン」と呼ばれる多様性に富む生理活性物質が含まれており、古くから民間薬、食用に利用されてきた。植物体内では、さまざまな環化酵素による環化反応によって多様なセスキテルペンが生成される。キク科植物は、種によって異なる環化反応があるため、その遺伝子資源を保全することが重要である。伊豆・三浦半島には、イズカニコウモリ、ユキヨモギなどのキク科固有植物(以下、固有植物と略)が確認されている。イズカニコウモリやユキヨモギは近年、個体数が減少し絶滅危惧種に指定されている。これら固有植物の化学的・分子生物学的知見はほとんどなく、今まさに貴重な化合物・遺伝子資源が失われようとしている。 

目的

 研究申請者は、キク科ヨモギ属植物33種60系統以上について網羅的な化学的・分子生物学的解析を行い、多数のセスキテルペンを単離同定するとともに、セスキテルペン環化の特徴付けを行った。そこで本研究では、植物研究園を拠点とした固有植物の生育調査を実施し、固有植物のセスキテルペンプロファイリングおよびセスキテルペン環化に関わる酵素遺伝子解析を行い「固有植物のセスキテルペン環化多様性」を明らかにし、貴重な遺伝資源の保全ならびに有効活用を目指す。特に、今年度の研究で生育場所ならびにセスキテルペンプロファイルの基礎データが揃ってきたイズカニコウモリとユキヨモギを中心に研究を発展させる。 

方法

 植物研究園を拠点とした生育調査を実施し、固有植物のサンプリングを行う。含有するセスキテルペンを中心にGC-MS分析を行い、研究申請者が実施済みのデータと照らし合わせて体系的な比較解析を行う。化合物分析に供したものと同一ロットの植物サンプルについて、単離済みの環化酵素遺伝子の配列情報を元に、環化酵素遺伝子の比較解析を行う。既報マーカー遺伝子および本研究で得られる遺伝子配列を元に、固有植物の遺伝子による系統分類法を確立する。 

期待される成果

 固有植物のセスキテルペン環化多様性を明らかにすることによって、新規セスキテルペン環化酵素遺伝子の単離および固有植物の分類学的知見が得られる。本研究を通して、「有用化合物資源を保全する」といった視点から絶滅危惧種、固有植物の重要性について認識を広めることができ、新たな保護活動を促進・展開する効果が期待される。さらに新規セスキテルペンの機能性調査により、機能性食品、医薬品原料など新たな用途開発、地域おこしが期待される。