植物研究助成

植物研究助成 19-08

代表研究者 京都大学 大学院理学研究科
教授 田村 実

背景

 伊豆・丹沢は、日本の単子葉植物の多様性に大きく貢献している地域の一つであり、この地域には独特な形態をした単子葉植物が多い。例えば、新変種として発表予定のエダウチゼキショウは、この属で唯一、複総状花序を発達させる。原寛先生が報告されたホソバホウチャクソウや、私が確認しているホソバナルコユリは、なぜかいずれもこの地域で狭葉化する。イズドコロやシマウチワドコロは、この地域で分化したと考えられる。しかし、いつ頃、どのように、これらの植物は進化したのか、その歴史は謎のままである。それ故、伊豆・丹沢地域が、単子葉植物の多様化の場として果たした役割については、未だにわかっていない。

目的

  本研究では、まず、伊豆・丹沢地域の単子葉植物が発達させた形態的独自性がどのようなものなのかを解明する。そして、伊豆・丹沢地域の単子葉植物が、いつ頃それらの独自性を発達させて、どのような植物から分化したのか、その歴史を明らかにする。
  本研究では、まず、形態形質を詳細に観察し、精密に測定する。例えば、伊豆・丹沢での狭葉化など、地域レベルでの変異を検出しようとする場合、精密な測定が必要不可欠である。次に、染色体を観察し、核型分析を行う。これにより、伊豆・丹沢に産する独特な形態をした単子葉植物が雑種あるいは雑種起源種である可能性を調べる。材料植物は、各地からできるだけ植物研究園に移植し、栽培されたものを用いる。次に、植物からDNAを抽出し、分子系統解析を行う。そして、植物間の遺伝的距離を計測し、分岐年代の推定を試みる。これらの分子レベルのデータを尺度として、形態的独自性が成立した歴史を推定する。

期待される成果

  本研究で最も注目されることは、いろいろな単子葉植物の伊豆・丹沢地域での独自性がほぼ同時期に獲得されたのか、バラバラに獲得されたのかという点である。そして、前者の場合、その時期は、伊豆半島が本州に衝突した時期に同調しているのかどうかという点である。本研究によって、単子葉植物が伊豆・丹沢地域で特に多様である原因の一つが、解明されることが期待される。