植物研究助成

植物研究助成 19-09

天城山ブナ林の植生史学的研究

代表研究者 東京大学 大学院農学生命科学研究科
農学特任研究員 指村 奈穂子

背景

 冷温帯ブナ林は日本の代表的な自然景観として重要である。太平洋型のブナ林は、日本海型に比べ、限られた地域に小規模に隔離しており、その成立や維持に関する研究事例は少ない。天城山のブナ林は、太平洋型ブナ林の1つであり、ヒメシャラと混交するのが特徴である。天城山八丁池周辺での調査により、林分の成立に人為的な伐採などが影響していることが示唆された。また一方で、この地域では、随所に炭窯跡がみられ、古文書には、江戸時代から明治時代にかけてこの地域で大量の炭が生産されていた記録が残っている。これらから、この森林を保全するために、この地域のブナ林の成立機構を、自然のプロセスのみならず、人間活動の影響も加味して解明することが必要である。

目的

 天城山における太平洋側ブナ林の成立機構を解明し、その保全に役立てるため、広域スケールで森林の組成と構造を調査して、その齢構成を明らかにする。そして、人為的な影響を抽出するため、炭釜の位置と規模、年代等を特定し、古文書にある地名や炭生産量を整理する。さらに、現在のブナ林の組成と構造にあたえる自然のプロセスや人為の影響との関係を解析し、ブナ林保全のための提言を行う。

方法

 天城山周辺の国有林で、その機能類型が「森林と人との共生林自然然維持タイプ」とされている地域を調査対象域とし、航空写真を用いて、おおよその林齢と種構成を類型化する。そして、それぞれの類型ごとに調査区を設置し、毎木調査を行い、成長錐サンプルを採取することによって、詳細な種組成と齢構成を明らかにする。また、この地域の環境要因として地形(斜面方位や傾斜)をGIS上で解析する。さらに、炭釜の位置や規模を踏査によって確認し、その上に成立している樹木の齢からおおよその年代を推定し、得られた古い炭のサンプルから樹種を特定する。また、古文書から、地域ごとの炭の年代による生産量をおおよそ推定する。これらの情報を合わせて議論し、天城山ブナ林の成立過程における自然のプロセスと人為の影響を推定する。

期待される成果

  天城山ブナ林の成立機構に、炭焼き等の人為が大きく影響しているとすれば、かつてのような利用を行わなくなった現在、このままでは森林の維持が困難である可能性がある。自然のプロセスが大きく影響している場合には、地球温暖化などによって気候条件が変化することによって、その存続が危ぶまれる可能性がある。本研究によって、これらプロセスが明らかになれば、天城山ブナ林を保全する価値やその方法について提言を行うことができる。