植物研究助成

植物研究助成 19-11

伊豆半島における外来植物群落の撹乱条件に対する植生学的評価

代表研究者 (財)地球環境戦略研究機関 国際生態学センター
上席研究員 村上 雄秀

背景

 生物多様性の保全の上で外来種:帰化植物は重要課題のひとつである(第三次生物多様性国家戦略)。日本に生育する外来植物は1,553種に達し、在来植物の20%を越えている(環境省2002)。かつて市街地などの人工景観域でのみ観察された外来植物は河川、海岸などの自然景観域にも侵入し、そこに生育する在来種、特に希少種の脅威となりつつある。伊豆半島でも深刻化している大型哺乳類の増加による食害、撹乱も在来種の衰退をもたらし、外来種の進入原因となる。緊急の外来植物の生態の把握と防除指針の提案が求められている。

目的

 外来植物の侵入・定着には人為的な撹乱が関与する(宮脇 1977)。本研究は外来植物の侵入・定着に際しての植生や立地環境の選択性を明らかにすることを目的に、様々な自然度階級の植生域で外来植物の定着量、種組成と人為・自然撹乱の質的・量的な関係を解析する。もって外来植物の侵入を抑制する環境要因の生態的評価を行う。伊豆半島は三方を海に囲まれ、海洋性気候の元で海岸のアゼトウナ−ハチジョウススキ群集から山地のヤマボウシ−ブナ群集まで多彩な自然植生が残存する一方、海岸や内陸の観光地、丘陵の里山、山地のシカ増殖地まで植生への多様な撹乱があり、本研究に適した地域といえる。

方法

(1) 伊豆半島の多彩な自然植生域、および海岸・内陸の観光地、さらに丘陵地の里山などの代表的な代償植生域を対象に植物社会学的な調査を行う。
(2) 各植生について被覆指数(Deckungswert)や出現頻度から外来植物の侵入程度を定量化し、各植生域の外来植物群落の組成上の類型を抽出する。
(3) 上の結果を植生への人為的干渉、多種の撹乱条件から評価・解析し、外来植物の侵入に際する植生や環境要因の選択性を明らかにする。本年度の主な調査対象である海岸域ではソナレセンブリなどの希少種の生育域の観光による人為的撹乱と、それに起因する外来植物との競合がモチーフとなる。

期待される成果

 伊豆半島にはヤブツバキクラスからブナクラスにおよぶ植生が配分し、様々な人為やシカ等による撹乱が加えられており、比較的均質な地理的な環境下で外来植物の撹乱条件への応答の比較が可能である。本地域の外来植物の防除的研究は、伊豆半島の生物多様性保全に寄与するとともに、海に囲まれた日本のモデルケースとして広く全国に普遍化できる。シカ等の撹乱による外来植物の侵入過程の解析は丹沢、大台ヶ原などの太平洋側山地へ応用が可能である。