植物研究助成

植物研究助成 19-12

高速シーケンス技術を利用した果樹栽培土壌の環境評価システムの開発

代表研究者 山梨大学 大学院医学工学総合研究部
准教授 鈴木 俊二

背景

 植物を育てるうえで、土壌の重要性は言うまでもない。土壌には、構成粒子の違いによる物理的性質、含有するイオンによる化学的性質、そして土壌生物による生物的性質が存在する。永年性作物である果樹では、一度土壌バランスが崩れると容易には復元することが難しい。そのため、土壌診断を定期的に行っているわけであるが、既に計測技術が確立している物理的および化学的性質に対し、土壌に生息する生物を網羅的に計測する技術は未だ開発されていない。特に、土壌中で生物循環に重要な役割を果たす細菌は、1gの土壌中に数百万種存在し、合計で数10億に達するほどの膨大な数が存在するため、土壌細菌フローラを計測することは非常に困難である。

目的

 本申請研究課題では、果樹栽培土壌の環境評価システムを開発するために、「高速DNAシーケンス技術」を用い、土壌中の細菌を網羅的に同定することを目指す。土壌中には純粋培養できない細菌も多い。そのため、従来の培地による土壌微生物の同定技術では、土壌に存在する微生物の約1%しか培養できず、土壌中に存在する「真の」細菌種さえ推定することができない。初年度の目標として、植物研究園梅林の土壌を定期的にサンプリングし、細菌種および優先種の同定を行い、その季節変動を追うことで、本申請研究課題で提案する環境評価システムの有効性を評価する。

方法

 植物研究園梅林を研究フィールドとする。季節ごと(年4回)に地下30cmの土壌をサンプリングし、土壌から直接DNAを抽出する。そのDNAを用いて、細菌16S rDNA領域をPCR法により増幅し、高速DNAシーケンスに供試する。季節ごとに2500のシーケンス(2500の細菌に相当)、合計10,000のシーケンスを解読し、細菌種の同定を行うとともに、その季節変動を明らかにする。

期待される成果

 本申請研究課題が目指す評価システムにより、培養が難しく、これまで存在さえ明らかにされなかった細菌を含めた果樹栽培土壌の生物的性質が解析可能となれば、土壌に影響する優先種を同定し、将来的には果実品質との相関関係も明らかになるであろう。また潜在的に存在する土壌病原微生物の同定により、病害防除予測にも適応可能である。ただし、1gの土壌中に数百万種存在するすべての細菌種を一度で同定することは不可能であるため、複数年をかけた継続的なデータの蓄積が必要であることは言うまでもない。本申請研究課題では生態系の整った植物研究園梅林の土壌を対象として環境評価システムの開発を行うが、本システムはその他果樹栽培にも応用可能である。