植物研究助成

植物研究助成 19-13

富士山・熱海・伊豆諸島に生育する植物2種の生態学的・分類地理学的研究

代表研究者 静岡大学 理学部
教授 増澤 武弘

背景

 日本列島の本州においては、イタドリとススキは低地から高山まで広く分布している。これら2種の仲間は富士山、伊豆半島、伊豆諸島にかけて、植物地理学的に特に興味ある分布を示している。高山から低地に広く分布するイタドリは伊豆半島の熱海から伊豆大島にかけてハイジョウイタドリに、ススキはハチジョウススキへと変化する。この分布は古くは牧野、杉本、佐竹等により報告されている。
 このように2種の仲間は富士山から伊豆諸島に移動するにつれ、分布状況が変化する。近年、伊豆半島の南東部(函南町、熱海市、伊東市)に大型のイタドリ、常緑性のススキが広く分布するようになった。これらは形態学的にハチジョウイタドリ、ハチジョウススキの特徴を持っている。このような分布は暖温帯の伊豆諸島から伊豆半島に両者が分布を広げたものと予測される。

目的

 日本列島に広く分布するイタドリとススキについて両者の近縁種を対象に、その地理的分布を葉緑体DNAについて、分子生物学的手法により明らかにする。近年、熱海を中心とした伊豆半島南東部において、伊豆諸島に分布の中心をもつハチジョウイタドリとハチジョウススキが広く分布するようになった。本研究ではこれら2種が確実に伊豆諸島のものと同種であるかを形態学的特徴と分子生物学的手法により確認を行い、近年の地球環境変動(地球温暖化)と結びつける基礎資料を得ることを目的とする。また、これらの4種が生育する場所の生育要因について生態学的側面からの解析を目指す。

方法

 熱海市を中心とした現地調査と標本調査により、両者の形態学的比較を行う。両者の資料について葉緑体DNAに関係したrbcL, atpB遺伝子間の解析を行う。DNAの抽出はCTAB法を用いる。PCR法により目的の領域の増幅を行う。DNAシークエンサーにより塩基配列の解析を行う。現地調査では、富士山から函南、熱海、伊豆諸島にかけて4種の分布域、生育環境の特徴、形態学的差異を調べる。熱海地域においても平均気温の上昇が見られるため、過去の気象データからその変動を調べ、4種の分布との対応関係を検討する。

期待される成果

 現在、イタドリとススキは伊豆半島でハチジョウイタドリとハチジョウススキに変っていくが、その変化がどの地域で生じているのかが明確化される。特に近年、熱海地域ではハチジョウイタドリおよびハチジョウススキと思われる種の分布が拡大しているため、本研究により地球温暖化と暖温帯の植物種の分布の拡大の実体が明らかにされるものと思われる。