植物研究助成

植物研究助成 19-17

太陽光により誘起された植物蛍光の分光画像計測

代表研究者 信州大学 工学部
教授 斉藤保典

背景

 温暖化原因物質である二酸化炭素の削減や固化に関しての議論がなされている。幾つかの人工技術が考えられているが、考え方の望ましい方向は、地球が本来有する自然の環境維持・浄化機能を上手に利用していくことである。この意味で、植物の果たしてきた役割は実に大きなものがあり、地球環境が変化しつつある中で、植物の生理機能がどのような影響を受けるのか、その変化情報を迅速に吸い上げ、必要ならば適切な処理を施すための判断材料の提供が求められている。

目的

 植物資源の健全な維持・保全および有効利用を検討するために必要な、植物"生"情報の取得・提供、を目標とする。この中で本申請課題での目的は、植物の生理機能や活動状況を、あるがままに(生育場所で生きたまま)把握することが可能な、太陽光誘起の植物蛍光分光画像計測法を新規に提案し、装置の開発と実際の植物計測を通じて、その実用性を確証することである。サンプリングや化学分析によらない植物計測技術の開発を目指す。

方法

 植物蛍光を判断材料の情報源とする。蛍光放出を確実にするため、蛍光誘起源として、従来はランプ、レーザー、LEDといった人工光源を利用したのに対し、本研究では、可能な限り自然現象そのものにこだわり、太陽光を利用する。太陽光では、上記の光源と比較してエネルギーが低く放出される蛍光も非常に微弱であることが予想されるため、太陽スペクトルの中の暗線(フラウンフォーファー線)を利用する。暗線強度が、太陽光に誘起されたクロロフィル蛍光により増加(底上げ)される変化を差分計測する(天文学でのFLD法)。植物計測へ適用する場合は、地球酸素による暗線領域にクロロフィル蛍光の遠赤外蛍光が重なることを利用する。技術的には、CCDカメラを用いて葉面全体の蛍光分布画像を得る。

期待される成果

 植物生理機能や活動状況を、採集せず(生育場所で生きたまま)、化学分析によらず(非破壊で)、分光手法(ドライで実時間処理)での評価が可能となる。前者二つは"生"体としての植物を相手にする場合には必須で、後者は情報通信技術との融合の容易さ(迅速な情報提供と対応)いう観点からの効果が大きい。太陽光以外のエネルギーを与えない為、真の光合成能力の調査ができる。人工光源の方法と比べて、単純構成、軽量、低電源負荷という長所を有し、圃場現場での計測に威力を発揮する。