植物研究助成

植物研究助成 19-19

花粉の自家蛍光特性を活用した実用的な花粉自動識別 計数装置の開発

代表研究者 筑波大学 大学院生命環境科学研究科
准教授 青柳 秀紀

背景

  植物の花粉の種類を識別して飛散分布や動態を定量的に把握することは植物の生態研究の重要な課題の一つである。また、近年、アレルゲン花粉に由来する花粉症が社会問題となっている。花粉症の根本的治療法は無く、抗アレルギー剤による症状の緩和が一般的である。現在、最も有効な対策は花粉との接触を避けることであり、花粉の種類を識別し、Real-timeで正しい花粉飛散情報を得る事が重要である。しかしながら、従来の花粉計測法は客観性、迅速性、感度、選択性の点で一長一短があり、これまで正しい花粉情報が得られてきたとは言い難い。現在、花粉の飛散数を選択的、客観的かつ感度良くReal-time計測することが社会的ニーズとして強く求められている。

目的

  花粉の局地的な飛散状況をReal-timeに観測し、情報提供するシステムの構築を最終目的に、本研究ではその基盤として、花粉種を識別して自動計数する際に必要な、花粉の自家蛍光特性と散乱光特性の解析を行う。得られた結果を活用し、実用的な花粉自動識別係数装置の開発を試みる。

方法

  花粉の種類の識別に有効な諸特性を探索した結果、(1)適切な紫外光を花粉に照射すると、花粉種特有の自家蛍光を発する事、(2)花粉の自家蛍光特性と散乱光特性(花粉サイズ)を組み合わせて評価することにより花粉種を識別できる事、を独自に見出した。さらにこの現象を活用し、スギとヒノキの花粉を識別して自動計数できる装置の開発研究を推進中である。以上の背景を踏まえ、種々の条件下で、様々な花粉や他の微粒子に青色半導体レーザー光を照射した際の自家蛍光特性および散乱光特性を解析し、花粉の識別係数を設定するための基礎データを集積する(解析用ソフトウェアの開発も行う)。得られたデータを活用すると伴に、開発研究を行ってきた花粉自動識別係数装置の問題点を改善(測定精度や感度の向上とメンテナンスフリー化)し、実用装置の完成を目指す。特に、(a)測定の際の花粉と異物の分離効率の向上、(b)測定部への汚れの付着の防止、等について検討を行う。また、実際に野外で大気中の花粉の自動識別係数実験を行い、本装置の性能を評価する。

期待される成果

  本装置により花粉の種類を識別し、大気中に飛散している花粉の数Real-timeで自動係数することが可能となり、精度が高い花粉情報(花粉の種類、数および飛散分布のReal-timeの情報や予測)を提供できる。本研究成果は、花粉症患者のアメニティー交響に貢献すると共に、植物生態の把握や林業の将来設計を構築する際にも、一つの指標として大いに役立つことが期待される。