植物研究助成

植物研究助成 19-20

バイオスペックルを用いた光断層画像法による植物の環境ストレスモニタリング

代表研究者 埼玉大学 大学院理工学研究科
助教 ヴィオレッタ ディミトロヴァ マジャルバ

背景

  近年の様々な環境汚染により、人間を含む動植物を取り巻く環境は著しく悪化しており、環境が生物の生長あるいは内部活性に与える影響を正確に計測する技術の確立が望まれる。従来の生化学的な分析法では植物体や一部の組織を採取するなど侵襲型の分析が主としておこなわれてきた。このような手法はその場での迅速な測定や絶滅危惧種などの貴重な植物の計測に適していない。 

目的

 生体をレーザー光で照射すると、スペックルパターンと呼ばれるランダムな干渉パターンが生成される。このとき、生体内部の散乱物質の運動を反映してスペックルパターンもランダムに変動する。これをバイオスペックルと呼び、生体の活性状態を計測することができる。本研究ではOCTと呼ばれる光断層画像法を用いて植物の葉などの内部の特定部位から発生するバイオスペックルを特異的に抽出し、機能的OCT法を開発することにより、無侵襲かつ高感度に光化学オキシダントなど大気汚染物質に対する植物のストレスモニタリングおよび植物を通した環境センシングをおこなう技術を開発する。

方法

 申請者がこれまで行ってきたOCT計測システムを改良することにより、散乱および減衰係数の大きな植物体に対して十分な計測ができるよう改良をおこなう。改良システムを用いて植物体内部の断層像(主として葉など)が得られることを確認した後、植物の生体活動に起因するバイオスペックルを時系列観測する。これにより、単に解剖学的な植物の断層画像だけではなく生体活性を反映した機能的断層画像のモニタリングをおこなう。OCT技術により、環境ストレスに対して特異的に反応する部位からのみのバイオスペック信号の抽出を試みる。大気汚染物質として主としてオゾンに注目して、バイオスペックル断層画像に基づいてストレス状態を計測する。

期待される成果

 従来のOCT技術は主として人や動物に適用され、単に生体の解剖学的な断層画像のみが観察可能である。それに対して、提案する手法は機能的OCTと呼ばれる新しい世代のOCT技術であり、生体の機能的な情報を断層画像として取得するものである。本課題では新規にバイオスペックルに注目した機能OCTを実現し、植物の活性度を画像化している点で従来にない新規な植物計測を可能にするものである。具体的な応用として、環境汚染に対するバイオセンサーや最近注目されている植物栽培工場における、最適栽培条件の制御および収量の最適化に応用可能である。