植物研究助成

植物研究助成 22-01

伊豆地域のブナ林における菌類の多様性と地理的分布の解明

代表研究者 京都大学 生態学研究センター
准教授 大園 享司

背景

 菌類は推定150万種が存在するとされており、地球上の生物多様性の大きな部分を担っている。また菌類は生態系における分解者、共生者、寄生者として、他の生物にはないユニークな役割を担っている。それにも関わらず、菌類はこれまでに約10万種しか記載されておらず、わが国でも1万余種しか報告されていない上に、その機能的な役割が未だ未解明のものが多い。菌類は肉眼では見えない微生物であるため、その研究にはある程度の手法的な困難を伴うが、植物の生育環境特性を理解するためには、植物と深く結びついて生活を営む菌類の多様性と機能を、生態学的に解明する試みが不可欠である。

目的

 伊豆地域のブナ林に生息する菌類の多様性と地理的な分布パターンを解明することを目的とする。ブナおよび主要樹種の落葉分解菌類と、ブナ科樹種などの細根に感染する菌根菌を研究対象とする。前々年度と前年度の本助成課題により、伊豆半島と伊豆七島の照葉樹林における菌類の多様性と分布パターンを明らかにした。本年度は、より冷涼な気候帯に位置するブナ林を対象として、最新の分子生物学的手法を用いた菌類多様性の解析を行うことで、伊豆地域における菌類多様性の理解をさらに深化させて、新規性の高い研究を行う。

方法

 野外での試料採取と実験室内での試料処理を行う。天城山、函南の2地域を対象として、落葉、および林床に出現する子実体を採取する。野外調査に際しては、熱海市にある植物研究園を利用する。採取した試料は実験室に持ち帰り、顕微鏡を用いた直接観察、栄養培地を用いた分離・培養、菌類DNAの抽出と塩基配列の決定を行う。菌類DNAを直接解析する分子生物学的法により、菌類の多様性を網羅的に明らかにする。

期待される成果

  本研究課題を遂行することで、伊豆地域のブナ林における菌類フロラを記載する。落葉分解菌、菌根菌の比較を通して、異なる機能を担う菌類の多様性パターンを比較することができる。以上のデータを、申請者がこれまで伊豆半島・伊豆七島および日本各地で行ってきた研究データと比較することで、わが国における菌類の地理的な分布パターンについて明らかにし、伊豆地域に生息する菌類の分布特性(固有性ないし普遍性)と、その制限要因について検討する。