植物研究助成

植物研究助成 22-19

植物工場のためのテレイグジスタンス植物観測制御システムの開発

代表研究者 木更津工業高等専門学校
講師 渡邊 孝一

背景

 近年の温暖化や異常気象のため、植物工場が注目されている。植物工場は(半)閉鎖空間において温湿度やCO2濃度、光強度などを計測制御し安定した農作物の供給を目的としているが。現状においては定点観察に基づく計測制御であり、空間の環境情報(蒸散速度、光合成速度)や群落ごとの成長情報を把握できていない。また、植物生育においては人の判断を要する難しい問題への対処が必要となる反面、問題に対処できる植物生育の専門家が少なく、将来的に植物工場が普及し増大した場合に対応できなくなる可能性がある。

目的

 本研究では、植物工場内の温湿度やCO2濃度、光強度などの空間分布計測と実観測に基づく制御による安定した農作物生産を実現するため、ロボットを介した遠隔植物観測制御システムを提案する。制御拠点を設置し、ネットワーク越しに異なる植物工場内のロボットへのリアルタイムアクセスにより、複数の植物工場の観測制御が少数の植物生育の専門家によって実現可能となる。取得した環境データを併用して適切な制御及び問題対処の方針を決定することで、定量的指針に基づく制御を確立し収量安定化を目指す。また、高温多湿環境下で任意の空間位置を間接的に計測できるため、時空間データを網羅したデータベースを構築することで統合的な植物工場の高度化が期待できる。これを実現する遠隔ロボットシステムの開発と実地試験を本研究の目的とする。

方法

 植物生育の専門家により直接的な判断を伴う診断方法として、高い臨場感を持って遠隔存在を可能とする技術概念であるテレイグジスタンスに基づきロボットによる遠隔介入を実現する。ロボットの視覚部と腕部を人の目と腕の機能として代行させることで、遠隔から植物の状態を観測する。腕部に多種センサを取り付けることで任意の空間位置を計測し、得られた情報をディスプレイに拡張表示することで高度な観測を可能とする。本助成では、既に提案しているANTSに基づき、システムを設計・構築し、実地試験運用を行うことで有効性を検証する。

期待される成果

 開発するシステムにより、農業に対する工学的アプローチとしてのプラットフォーム確立と、テレイグジスタンスの社会応用基盤を確立の双方への寄与が期待できる。プロトタイプの高度化と低価格化を進めるとともに、植物生理の理解を深めて様々な種の農作物生産を実現することにより、植物工場の普及と多品種の安定生産が期待される。さらに工場の増大だけでなく、現在の日本の農業人口の減少に対しても遠隔観測は有効に機能するため、国内農業に対して利益をもたらすシステムであるといえる。