植物研究助成

植物研究助成 26-03

広義サクラ属(Prunus)の冬芽形態の多様性と進化

代表研究者 東京学芸大学 自然科学系 広域自然科学講座 生命科学分野
准教授 岩元 明敏

背景

 広義サクラ属(Prunus s.l.)は多様な植物を含む群であるため,果実の形態などに基づき6属に分割するという見解が提案されている(Ohba & Endo 2001)。しかし、分子系統解析の結果、この分類は系統を反映していないということが分かった(Lee & Wen 2001, 2008; Zhao et al. 2016)。一方で、広義サクラ属の冬芽形態には多様性があり、系統を反映した形質である可能性が示唆されてきた(Iwamoto et al. 2001; Iwamoto and Mochizuki 2009; 岩元2013)。そこで、代表研究者らは平成28年度植物研究助成を受けて、広義サクラ属の包括的な冬芽の形態観察と精度の高い分子系統解析を進めてきた。

目的

 広義サクラ属60種について冬芽形成と展開の形態観察を完了させ、その多様性を明らかにする(そのうち約20種はすでに前年度の植物研究助成により完了)。さらに、この60種の広義サクラ属について精度の高い分子系統樹を作成し、形態解析の結果と比較を行うことで、冬芽形態、特に冬芽における前出葉腋芽の展開様式が系統進化を反映した形質であるかを検証する。

方法

 これまでの形態観察の結果を踏まえ、新技術開発財団植物研究園植物研究園(熱海)、東京大学大学院理学系研究科附属植物園(東京都文京区)、エジンバラ植物園(イギリス)、マインツ大学附属植物園(ドイツ)で植栽されている植物から追加で冬芽の採集を行う。海外の植物園では、特に前年度の植物研究助成で重要性が示された欧州原産のPrunus mahaleb(マハレブザクラ)の採集に重点を置く。これらの採集サンプルについて電子顕微鏡を用いて形態観察し、年間を通じて冬芽がどのような過程で形成され、展開しているかを明らかにする。さらに葉緑体の複数の塩基配列を用いて、形態観察を行った約60種の広義サクラ属についての分子系統解析を完了させる。この系統樹上に観察した冬芽の形態データを配置し、形態進化の過程を検討する。

期待される成果

 本研究により、広義サクラ属の冬芽形態と系統との関係が明らかとなる。これまでの研究から、前出葉の腋芽の展開様式が系統を反映した形質である可能性が高く、その検証も可能となる。また本研究の成果は、系統を反映した広義サクラ属の新たな分類体系の構築につながることが期待される。