植物研究助成

植物研究助成 26-05

伊豆半島における海洋植物の多様性調査

代表研究者 お茶の水女子大学 基幹研究院
准教授 嶌田 智

背景

  海洋植物(海藻類・ウミクサ類)は、沿岸域に生育する大型の酸素発生型光合成生物で、海洋生態系を支える重要な一次生産者である。伊豆半島には約450種の海洋植物が生育していると報告されており、1つの半島でこれほど多くの海洋植物種が生育する例は、世界でも知られていない。近年の分子データを用いた海洋植物の種多様性解析により、多くの未記載種が発見され、海洋植物はこれまで考えられた以上に多様性に富んだ生物群であることが示唆されている。また種内個体群の系統地理学的解析により、新種の可能性の高い種が複数検出された。そのうちの1種の紅藻イカノアシ類の未記載種に関しては、伊豆半島南部で広範囲に分布していることを明らかにし、形態的にも近縁種と区別できたことから、現在、新種記載を進めている。さらに、褐藻類の系統地理学的解析をおこない、分布変遷史や遺伝的多様性について考察した。

目的

 平成29年度植物研究助成では、伊豆半島に生育する海洋植物の種多様性を正確に明らかにするため、生態調査等によりさらなる新種記載を目指す。また、比較系統地理学的解析の種数を増やし、伊豆半島に生育する海洋植物種の個体群特性を詳細に把握する。さらに最終年度として、これまでの情報をとりまとめ、「伊豆半島の海洋植物」という図鑑を作成する。

方法

[新種記載] 4、 5、 6、 7月の計4回、植物研究園を活用し、本年度までに検出できた“新種”と近縁種に注目した採集、分子系統解析、形態学的解析および生態調査をおこない新種記載を目指す。
[比較系統地理学的解析] 紅藻マクサに関してRADseq解析をおこない、全国の個体群(既に採集済み)と伊豆半島個体群を比較し、系統地理学的解析を進める。
[図鑑の作成] これまでの情報をとりまとめ、「伊豆半島の海洋植物」の図鑑を作成する。

期待される成果

 本研究における新種記載により、伊豆半島産海洋植物の種多様性がより正確に把握できる。また、比較系統地理学的解析では伊豆半島に生育する海洋植物の遺伝的特色が明らかになるなど伊豆半島の海洋生態学的研究の基盤が構築される。さらに、作成する図鑑を普及させることにより、伊豆半島という地域の価値性・重要性について多くの方に再認識して頂け、伊豆半島の海洋植物と環境を守り育成する研究・啓蒙活動へと発展できる。また、特定地域の種および個体群の多様性を同時に解析する手法は世界的にもめずらしく、世界各地での応用が可能で、その波及効果は非常に大きい。