植物研究助成

植物研究助成 26-06

植物モデル系を用いた未利用内生放線菌の分離と保全および活用

代表研究者 北里大学 北里生命科学研究所
准教授 松本 厚子

背景

 放線菌は、グラム陽性高G+C細菌の中でも形態分化が進んだ一群をさし、ストレプトマイシンやエバーメクチンに代表される医薬品を始めとする多数の天然有用化合物の探索源として、一般に土壌から分離されてきた。しかし近年では有用物質探索過程において既知物質に同定されることが多くなり、今までとは異なる新しい探索源が求められている。申請者は新しい分離源として植物の根に注目し、植物内生放線菌を分離し、3新物質の発見に貢献すると同時に、3新属7新種を見出し報告してきた。一方、植物中に存在する放線菌を、遺伝子(16S rRNA)から推定すると、まだ多数の未分離放線菌が存在することもわかってきた。植物は未利用な微生物資源の宝庫であるにもかかわらず利用はほとんど進んでおらず、魅力的で未開拓な放線菌の探索源である。

目的

 伊豆半島の財団植物研究園より採取した植物試料を用い、根の中に多数存在する未分離の内生放線菌群を分離、分類し、微生物資源として活用かつ保存する。分離手段として、植物内の環境を考慮し、現在開発中の植物細胞との共培養法による植物モデル系を用いて従来法では分離できなかった未分離放線菌を分離する。分離株は次の3項目に利用する。(1)新規放線菌を見出し資源として保存、保全する。(2)植物細胞によって生産される生育促進因子を探索し未分離菌の分離、培養に応用する。(3)有用物質の探索源として培養液中から新規物質を探索する。

方法

 採取した試料(植物の根)を洗浄後表面殺菌し、植物培養細胞との共培養法を用い、植物内生放線菌を分離する。分離株は、遺伝子解析により分類群を推定し、新規性が高い株は、系統解析、化学分類、形態、培養性状および生理生化学的特徴に基づき分類研究を進め、新規放線菌を見出し微生物資源として保存する。また、植物細胞との共培養で生育が促進される菌株の生育促進物質を特定し、新たな分離に応用する。全分離菌株は複数の生産培地で培養し、培養液中の二次代謝産物を液体クロマトグラフィー (LC/UV) や液体クロマトグラフ質量分析 (LC/MS) 等により解析し、新規有用物質探索を行なう。

期待される成果

 土壌から分離される放線菌は90%以上がストレプトマイセス属放線菌であるのに対し、植物からはそれ以外の放線菌が約80%を占める。また、伊豆半島という今までに使用経験のない環境の試料を使用することおよび植物細胞を用いる新しい分離法によって、今までにない新規あるいは未利用放線菌の分離が期待できる。また、新たな微生物資源の開拓により新規有用物質の発見、さらに創薬への展開が期待される。