植物研究助成

植物研究助成 26-07

種子食性昆虫による種子食害がササの開花習性の進化に与える影響の解明

代表研究者 秋田県立大学 生物資源科学部 生物環境科学科
助教 坂田 ゆず

背景

 種子食性の昆虫の食害は、植物の繁殖成功を大きく左右すると考えられる。日本の森林の優占種であるササに関しても、種子食性昆虫の存在が知られている。ササは、一回繁殖性で広域同調開花性を示す植物であり、これまで開花周期が長い理由について、捕食者の飽和、競争回避、空間遺伝構造の観点から仮説が提唱されてきた。広域にわたるササの開花は希な現象である一方で、小規模な開花はしばしば見られる。しかし大量の種子繁殖が知られている広域開花に比べて、小規模開花では結実する前にタマバエやミモグリバエなどの昆虫に多くの種子が食害されていることが分かっている。しかしこれらの昆虫の食性や詳しい生活史について分かっていない。伊豆半島は、複数種のササ草原が顕著に発達している貴重な地域であり、ササの開花習性の進化に種子食昆虫が与える影響を解明することは、伊豆半島の森林の動態を理解し、ササ群落を保全する上で重要である。

目的

 本研究では、種子散布前の種子の食害がササの開花習性の進化に重要な影響を与えていると考えた。そこで、伊豆半島におけるササの種子食性の昆虫を調査し、種子食がササの小規模開花における種子生産に与える影響を解明し、開花規模と種子食害の影響について考察する。

方法

 伊豆半島と日本に広く分布するササ類において、種子食性の昆虫の採集、飼育を行う。得られた昆虫は、ササの種や集団間で比較し、寄種植物や生活史を明らかにする。また、ササの開花集団サイズと種子食害率と種子生産の関係を野外調査によって明らかにする。さらに、過去の一斉開花時の標本を利用して食害率を推定する。

期待される成果

 ササの種子生産を規定する生物的要因である昆虫の食害を同じ地域に生育する複数種のササにおいて明らかにすることは、種子食害とササの個体群動態や長期開花周期の進化の関係ついて重要な示唆を与えるものと期待される。また、滅多に咲かないササの種子を食べる昆虫の生活史を解明することで、種子食昆虫の食性幅や種子利用への進化について新しい視点をもたらすと考えられる。