植物研究助成

植物研究助成 26-09

天城山系におけるヒメシャラ、ヒコサンヒメシャラの個体群動態に関する研究

代表研究者 静岡大学 理学部 生物科学科
准教授 徳岡 徹

背景

 日本にはツバキ科ナツツバキ属は3種(ナツツバキ、ヒメシャラ、ヒコサンヒメシャラ)が知られている。3種ともに太平洋側の関東より西の山地帯に分布するが、南アルプスや富士山ではナツツバキが山地帯の上部、ヒメシャラが下部に分布し、その中間にヒコサンヒメシャラが分布している。一方、核型分析の結果からヒコサンヒメシャラはナツツバキとヒメシャラの雑種起源であることが示唆されているが、これまで詳細な研究はない。そこで、日本産ナツツバキ属3種のDNA解析を行い、これら3種のそれぞれの個体群間における類縁関係を明らかにすることを目的として研究を行った。
 核ITS領域のDNA塩基配列を解析した結果、ナツツバキ属3種はそれぞれ、はっきりと区別される単系統群となった。一方で、葉緑体の遺伝子間領域の解析では、ナツツバキ属3種は単系統群にならず、種間の変異よりも種内の個体群間の方が変異が大きかった。また、ヒメシャラとヒコサンヒメシャラは天城山系では交雑しておらず、今後の研究においてはナツツバキが研究の重要な鍵となることが分かった。

目的

 日本産ナツツバキ属3種のDNAタイプとその分布を広範囲に把握することで、それぞれの種における個体群間の類縁関係を明らかにする。同時に、天城山系におけるヒメシャラとヒコサンヒメシャラの起源を明らかにする。

方法

 日本各地に分布するナツツバキ属3種を広範囲にわたって採集する。特に今まで採集できなかった南アルプス(山伏)および丹沢山系でも採集する。DNAマーカーは予備実験の結果から、葉緑体の遺伝子間領域と核ITSを用いる。これらの領域を解析し、種間および種内の個体群間の類縁関係を明らかにする。

期待される成果

 太平洋側のブナ林は更新がうまく行っておらず、その将来が危惧されている。ブナとともに優占種となるヒメシャラの分布域の消長を明らかにすることで、ブナ林の将来を考える上で重要なデータを提供する。また、ナツツバキ属3種の起源を明らかにすることができ、植物分類学上重要な研究となる。