植物研究助成

植物研究助成 26-15

植物生育診断分布の遠隔計測が可能な植生蛍光スペクトルライダー装置

代表研究者 信州大学学術研究院 工学系
教授 齊藤 保典

背景

 衛星観測による植物光合成状況の全地球規模分布図が作られた。またヨーロッパ宇宙機関は、2015年11月に次期地球観測衛星として植生蛍光観測FLEXを採択した。従来の衛星植物観測との違いは、植物クロロフィル蛍光を観測する事で、直接的に植物“生理”情報を得ることにある。一方、衛星観測は地上観測での検証が必須であるが、両観測手法に基本的な違いが存在するため検証作業は困難な状況にある。検証実現に向けた新計測技術の開発が急がれる。

目的

 最終到達目標を、衛星観測と地上観測を繋ぐことが可能な「航空機蛍光ライダー装置の開発」に置き、本助成ではその基盤技術として、(1)植生蛍光スペクトルライダー装置の開発と(2)フィールド遠隔計測結果を踏まえた(3)広域植物生育診断分布図の作成を試みる。

方法

 
(1) 植物生葉蛍光スペクトルの把握:分光蛍光光度計を用いて、植物生葉の励起−蛍光マトリクス特性を計測する。温暖化による植物健康被害を想定し、水ストレス時の植物蛍光スペクトル変化を、Blue-Green蛍光(400-600nm)と灌水量との関係より調査する。同時に光合成色素クロロフィルのRed蛍光(685nm)とFar-Red蛍光(740nm)より光合成情報を得る。これらは生育診断用データベースとして、フィールド試験の際の照合に用いられる。
(2) 植生蛍光ライダー装置への改良:上記結果を現有自作ライダー装置に適応することで、植生観測に特化した蛍光スペクトルライダー装置とする。分布図作成のための二次元掃引機構を導入する。
(3) フィールド実証試験:樹木蛍光の遠隔非接触観測を実施する。ライダー二次元掃引計測とレーザーの奥行方向計測結果に(1)を導入し、水ストレスと光合成情報の三次元分布図を作成する。

期待される効果

 (1)「航空機蛍光ライダー装置」の基盤技術確立による、(2)遠隔非接触型で(3)植物の(化学分析では不可能な)「生きた」データに基づく植物生育診断分布図が得られる。このことは農業や林業等の経営への効果が大きく、灌水、肥料や農薬散布等の対処の必要性・不必要性の判断基準や、資源投入の最適化による経済性や作業効率を重視しかつ環境保全配慮型の営農手法を提供する。