植物研究助成

植物研究助成 26-20

伊豆半島の野シバを主対象とした系統解析と塩適応性に関する研究

代表研究者 東京工科大学 応用生物学部
教授 多田 雄一

背景

 野生シバは日本を含む世界中に広く自生しており、海岸に自生する系統を中心に耐塩性系統が含まれている。しかし、耐塩性の野生シバの起源や進化の過程、生理・生態的な特徴、共通する耐塩性機構などについては分かっていない。また、人工海浜の造成や津波等の被害によりかく乱された海岸の植生を回復させるためには、その地域に固有な野生植物を植栽することが望ましいと考えられるが、野生シバを含む各地の海岸植物の多様性についてはほとんどわかっていない。

目的

 日本各地から野生シバを含む海岸植物を収集し、DNA配列をもとにして系統解析を行うことで、近縁関係を明らかにし、進化や多様性に関する知見を得ることを目的としている。特に、野生シバについては耐塩性のレベルや生育特性を調査して、進化との関係も明らかにする。また、日本各地の海岸植物の分子遺伝学的な解析からそれらの系統関係と多様性を明らかにし、海岸植物相の保全や回復に役立てるための基礎データを得ることも目的としている。

方法

 28年度までに植物研究助成などを活用して収集した野生シバに加えて、海洋島である伊豆諸島やこれまでに採集していない北日本地域に自生している野生シバやハマヒルガオ、コウボウシバなどの海岸植物を採集して、リボゾーマルRNA遺伝子のITS1配列を解析して系統樹を作成し、系統の分化や多様性について調べる。特に、野生シバについてはインキュベータや温室内で耐塩性の検定やイオンの吸収・蓄積特性、塩類腺の有無やその密度、構造についても調査し、それらの形質に関連する遺伝子の解析も行う。

期待される成果

 日本の野生シバや海岸植物の系統解析により、それらの多様性や系統進化の道筋が明らかになると期待される。特に、野生シバの進化や耐塩性の獲得による適応過程を明らかにする手がかりが得られると考えられる。収集した野シバは、各種研究や塩害地の緑化材料としても利用可能である。また、造成等でかく乱された海岸の植生を、その地の固有種を活用して回復するために必要な情報を取得できるとともに、同種内の希少な亜種/系統の同定が可能になり、それらの植物の保護活動にも貢献することができる。