植物研究助成

植物研究助成 26-22

植物組織の凍結制御活性の検索

代表研究者 東京理科大学 理工学部 応用生物科学科
教授 朽津 和幸

背景

 地球は水の惑星といわれ、大量の水が液体、固体、気体として地球上に存在する。水は人間も含め全ての生命活動の場であり、生存に不可欠である。現代文明、産業、人間活動も水なしでは成立しない。環境保全、地球温暖化・省エネ対策には、水の統御、利活用が重要であり、気象・降水量等を制御する技術、水、氷、水蒸気の三相を省エネルギーで効率よく変換・制御する技術が求められている。また、絶滅危惧種や希少な遺伝資源・細胞等を保存するには、生物体内の水をうまく制御・不活化することが重要である。植物は水分が豊富なため、凍結は最も過酷なストレスである。耐寒性のある植物は、長い氷河期を乗越えて生残してきたため、各組織は凍結を精細に制御できる物質の宝庫であることが明らかになりつつある。その中に凍結を誘発する物質(氷核活性物質)や凍結を阻止する不凍活性等がある。

目的

 純水は0℃では凍結しにくく、過冷却しやすい(最大-40℃)。氷核活性は過冷却を打破して凍結を促進し、安価で高活性・高安定性のものは下記の凍結関連産業の省エネや気象制御等の技術創出に有用である。本研究では、耐寒性植物等に含まれる氷核活性を広範に検索し、高活性、高安定性の新規氷核活性を見出し、その特性を解明することを通して新規凍結制御技術開発に資する。

方法

 前年度に引き続き、氷核活性検定装置を用いて、国内外の広範な温帯から亜寒帯の植物種の各組織を検索し、安定で高い温度で凍結を誘発でき入手が容易な氷核活性の探索を進める。種・組織分布やその特徴、耐寒性における役割、機能性、利用性等を解析し、有望なものは同定を進める。

期待される成果

 高い温度で凍結を誘発する既知の氷核活性物質としては、ヨウ化銀や氷核活性細菌などがあるが、前者は高コスト、後者は菌の病原性や熱に不安定で耐久性がない等の問題がある。本研究により、安価で高活性・高安定性の氷核活性物質を同定できれば、工業的に水を高い温度で早く凍らせる技術、即ち、冷却エネルギーを節減して氷を作ることができ、省エネ冷凍(自動販売機などの小規模冷凍システムから大掛りなコールドチェーンまで)、省エネ蓄熱冷房(夜間電力で作った氷を利用してビル・地域冷房を行う)等の技術への利用が期待される。人工降雨・降雪(散布により雨・雪の誘発や台風等の勢力を制御する)、燃料電池(排気物の水蒸気を取除く)、食品の香味成分の凍結濃縮技術(氷には溶質が取込まれないことを利用して、半凍結状態で香味成分を損なわず濃縮する)や絶滅危惧種や希少細胞の凍結保存(高い温度で細胞外を凍結させ、人工的に細胞外凍結を誘導する必要がある)、凍結温度を自働検知するセンサー等にも応用可能と期待している。