植物研究助成

植物研究助成 27-01

先端根圏における菌根菌呼吸の分離測定手法の開発

代表研究者 東京農業大学 地域環境科学部
准教授 今井 伸夫

背景

 樹木は光合成で得た炭素のうちの相当量を地下部根系、特に根とそれに共生する菌根菌に呼吸基質として配分している。「根呼吸」と「菌根菌呼吸」はあわせて「根圏呼吸」と呼ばれ、この「根圏呼吸」の理解は温暖化応答予測や物質循環の解明に欠かせない。しかし、菌根菌呼吸の測定例は、菌根菌をホスト(根)から非破壊的に分離して呼吸を測るという技術的困難さのためにほとんどない。菌根菌と根ではサイズや生理機構が全く異なるため、呼吸の環境応答特性は両者で異なると考えられる。また、菌根菌呼吸が土壌呼吸の数十%をも占めることが同位体を用いた研究から示されている。にもかかわらず、これまで菌根菌呼吸はホストである根の呼吸と一括りにされ、全ての炭素動態モデルにおいて無視されてきた。
 菌根菌の生理活性は、根のサイズ、菌根菌種、宿主樹木の生活型(常緑・落葉、アーバスキュラー・外生菌根性)によって変化すると考えられる。しかしこれまで、根系レベルで菌種や樹種が菌根菌呼吸に及ぼす影響を調べた例はない。

目的

 本研究は、(1)根圏呼吸に占める菌根菌呼吸の寄与度と、(2)菌根菌・根呼吸に及ぼす宿主樹種と菌根菌種の影響を明らかにすることを目的とする。

方法

 菌根菌の生理活性は、先端根(直径0.5mm未満の1-3次根)で最も高い。腐生性土壌微生物のコンタミを避けつつターゲット樹種の高活性根圏で呼吸を測るために、先端根をシリンジ内培養する定法と殺菌処理を組み合わせ、菌根菌と根の呼吸を別々に測る新たな測定手法を開発する。植物研究園や伊豆半島各所森林において、外生菌根性のコナラ属(常緑のアカガシ、落葉のコナラ)、アーバスキュラー菌根性のモチノキ属かニシキギ属(常緑・落葉1種ずつ)を対象に、菌根菌・根の呼吸速度、先端根の形態、化学性、分解酵素活性を測定する。菌根菌種を、rRNAのITS領域及び18Sの塩基配列解析から推定する。

期待される成果

  本課題により、根呼吸と菌根菌呼吸それぞれに及ぼす菌根菌種、樹種の生活型、根の生理特性の影響を初めて明らかにでき、多くの生態学的な新知見が得られる。根圏呼吸に占める菌根菌呼吸の割合推定ができるため、菌根菌と根の呼吸を一括りにしている現行の炭素動態モデルに再評価を迫ることができる。