植物研究助成

植物研究助成 27-07

海洋島である伊豆諸島における特殊な送粉様式の起源と進化

代表研究者 神戸大学大学院 理学研究科
特命講師 末次 健司

背景

 伊豆諸島は、他の島と陸続きになった歴史をもたない海洋島であるため、偶発的に漂着した生物が島の生物相を支える材料となる。よって伊豆諸島で花粉媒介に寄与する昆虫は本土からの距離に比例して減少する傾向がある。例えば、伊豆大島以外の伊豆諸島ではマルハナバチ類が分布しない。このため本来マルハナバチによって受粉されていた花は、小型のハチや自家受粉によって種子繁殖を行う可能性がある。しかし本土で主にマルハナバチ類に花粉媒介を託している植物が、伊豆諸島でどのようにして受粉を達成しているのかは明らかではない。

目的

 マルハナバチ類に花粉媒介を託している植物が、伊豆諸島で生育できる理由として、(1) 花形質を変化させ、花粉媒介者を転換した可能性と (2) 昆虫に受粉を頼らずにすむ自家受粉を獲得した可能性が考えられる。本研究では、花粉を運ぶ昆虫との関係性が著しい形態の多様性を生み出したラン科植物に焦点を当て、どちらの可能性が伊豆諸島での生存に寄与しているのかを明らかにする。

方法

 伊豆諸島と本土の他地域においてその送粉者を特定するとともに、自動自家受粉能力の有無について、開花個体に袋掛けを行うことにより明らかにする。また伊豆諸島と本土の他地域において花形態を比較し、送粉様式に応じた適応がみられるか検討する。また送粉様式に変化が見られたものを中心に、塩基配列を決定し、伊豆諸島と本土での遺伝的分化の有無を検討する。

期待される成果

 海洋島における送粉共生関係の変化は、多くの生態学者、進化生物学者が注目してきたテーマである。これを明らかにするためには、海洋島の固有種とその近縁種の生活史を比較するという方法が考えられる。しかしながら別種間での比較では、系統的に離れていることから、正確な進化の過程を追うことは難しい。本研究では、同種内の変異 (極めて近い過去に起こった変異) に注目することで、系統学的に離れた植物間の比較解析では得られない強固なロジックを導き出すことができると期待される。