植物研究助成

植物研究助成 27-15

植物の成長と電場の関係を明らかにする計測・摂動技術の開発

代表研究者 自然科学研究機構 基礎生物学研究所
特任准教授 川出 健介

背景

 生態系には電荷の空間的な偏り(電場)がごく自然に存在する。そして、興味深いことに、電場が先導的に植物の成長を制御していることが示唆されている。しかし、電場と成長を定量的に関連付ける研究は極めて限定的である。その理由として、これまでのパッチクランプによる電位差測定には、高度な技術と専門の設備が必要だった点が挙げられる。

目的

 本申請課題では、精度良く簡便に電位差を測定する新しい植物実験系を確立する。さらに、人工的に電場を操作できる栽培チャンバーを開発し、植物の成長に対する電場の影響を明らかにする。以上をまとめて、植物の成長戦略を電場で改変できる新しい科学技術を提案する。

方法

 コケ植物ヒメツリガネゴケの原糸体や、種子植物シロイヌナズナの根は、電場に対する応答性がある。そこでまずは、膜電位感受性の蛍光色素DiBAC4(3)を用いて、これら組織における電位差を可視化する。そのために、チャンバースライド内で育てた植物にDiBAC4(3)を処理した後、共焦点顕微鏡観察を行う。そして、得られた顕微鏡画像から、蛍光輝度をもとに相対的な疑似カラーで電位差を表現する。さらに、このチャンバースライドを電極が備わった容器に取り付けて、植物組織の周囲に人工的に電場を作る装置を開発する。過去の文献を参考にすると、比較的長く植物を電場に曝す必要があるので、熱の発生や培養液の電気分解に対処するため、灌流装置を組み立てるなどの工夫を行う。最適化した装置が完成すれば電場への摂動実験に取り組み、生態系で測定される実際の電場が、どのように植物の成長へ影響を与えるのか明らかにする。

期待される効果

 植物を対象とした汎用性の高い電位差測定法の確立は、電場と植物の成長といった未開拓の領域を理解する重要な技術になる。これまでの大きな実験的制約を鑑みるに、この植物の生態を工学的に測定する手法は、植物科学に関する幅広い分野への波及効果が期待できる。さらに、電場への摂動実験装置と組み合わせることで、生態系内の電場の影響を実験的に検証することが可能になる。これは自然界における植物の成長戦略を理解する鍵になり、ひいては、生態系のみどりを守り育成する新しい指針を打ち立てる成果になるはずである。