植物研究助成

植物研究助成 29-04

南方起源海流散布植物における分布限界の決定要因の解明

代表研究者 京都大学 大学院理学研究科
准教授 燻R 浩司

背景

 植物の分布形成には、種子や胞子の散布能力と環境要因が深く関わっている。近年の地球規模の気候変動に応答して、植物の分布がどの様に変化し、生物多様性にどのような影響を与えるかを評価することは、人類的課題である。本研究では、南方起源の海流散布植物に着目し、その分布北限の決定要因の解明を目指す。

目的

 ハマオモト線に分布北限を持つ複数の南方起源海流散布植物に着目し、その分布限界の決定要因を多面的に探求する。主にハマボウ、ハマナタマメ、イワタイゲキの3種を対象に、(1) 北限集団の遺伝的多様性、(2) 北限集団の種子散布能力、(3) 北限を超えた種子散布の可能性を明らかにする。

方法

 野外調査:DNA解析用試料と種子を、伊豆半島を含む全国各地から採集する。

 集団ゲノミクス解析:次世代シーケンサーで塩基多型を検出し、集団間の遺伝子流動、集団動態、集団の遺伝的多様性を調べる。特に伊豆半島の集団に着目して、(1) 北限集団の遺伝的多様性が他の集団と比べて減少しているかどうかを検証する。

 種子散布能力の測定:人工海水中で種子の浮遊実験を行い、個体・集団毎に種子海流散布能力を測定する。種子の浮遊率を1ヶ月毎に算出し、最長で12ヶ月間実験を継続する。特に伊豆半島の集団に着目して、(2) 北限集団での種子散布能力が他の集団と比べて低下しているかどうかを検証する。

 種子海流散布モデリング:海流による粒子拡散シミュレーションを行い、集団間の種子散布パターンを解析する。現存する集団に加えて、非生育地への”無効”散布を定量化することで、(3) 北限を超えた種子散布の可能性を検証する。

 統合解析:以上の解析から、各種の分布北限の決定要因を考察する。2020年度はハマボウについて全解析を実施し、ハマナタマメとイワタイゲキについては試料収集を拡充し、次年度以降に全解析を実施する。

期待される成果

 本研究で用いる複合的アプローチにより、ハマオモト線を分布北限とする主要海流散布植物3種の分布限界の決定要因の一端が解明されることが期待される。実証データをもとに、地球温暖化に対する海流散布植物の分布拡大の可能性や今後の保全対策を議論することが可能となる。