植物研究助成

植物研究助成 29-07

シュンラン属における菌従属栄養性の進化過程の遺伝的背景を解明する

代表研究者 千葉大学 大学院理学研究院
教授 村上 正志

背景

 植物のなかには、光合成を行わず菌に寄生して生育する菌従属栄養性や、光合成を行いつつ部分的に菌に寄生する混合栄養性を示す種がある。これらの種は、光合成を行う独立栄養植物と比べて葉や根が退化しているが、このような変化の遺伝的背景は明らかでない。これらの植物種を比較することで、植物の形態や共生系がどのように進化したか明らかにすることができるだろう。ラン科シュンラン属には、葉をもち混合栄養性を示すシュンランや、葉をもたず菌従属栄養性を示すマヤランが含まれる。これらの2種は葉の有無だけでなく、菌根菌相も異なることが知られており、これら2種は、菌従属栄養の進化に伴う変化の遺伝子レベルでの解明にあたって、有効なモデルシステムになりうる。

目的

 本研究は、以下の3つの疑問を解決することで、植物の菌寄生への進化に伴う、遺伝的な変化を解明することを目的とする。i. 葉の形成や光合成に関わる遺伝子が、菌従属栄養植物で維持されているか。ii. 混合栄養性の種は、生育環境に合わせてどのような遺伝子の発現を変動させ、菌依存度を調節しているのか。iii. 異なる菌根菌相を示す種間では、菌根共生に関わる遺伝子にどのような違いがあるのか。

方法

 函南原生林やその周辺に自生するシュンラン・マヤランを採集し、以下の実験に用いる。
I. 混合栄養植物における菌依存度の調節方法の解明:混合栄養植物であるシュンランは、栽培環境下では菌から栄養を得ることなく生育可能である。そこで、実験室内でシュンランと菌根菌を共培養する。異なる培養条件で栽培したシュンランでRNA-seqを行い、遺伝子発現を比較することで、菌依存度の調節に関わる遺伝子を探索する。この実験により、菌依存度の調節機構を解明する(疑問iiの解明)。
II. 菌従属栄養植物の進化に関わる遺伝子の探索:葉や光合成能力が退化し、特異な菌根菌相を示すマヤランと、葉や光合成能力を持つシュンランのゲノムを解読し比較することで、菌従属栄養植物の形態や菌根菌相の進化に関わる遺伝子を探索する。また、実験Iで得られたシュンランの菌依存に関わる遺伝子が、マヤランではどのようになっているか調べる(疑問iとiiiの解明)。

期待される成果

 本研究が完成すれば、植物の共生系や形態の進化に対する理解が深まることが期待される。また混合/菌従属栄養植物には絶滅危惧種が多く含まれており、菌に寄生する仕組みが明らかになれば、それらの保全に役立てることができる。