植物研究助成

植物研究助成 29-08

混交林に隠された外生菌根菌の宿主選好性の解明

代表研究者 京都大学 大学院人間・環境学研究科
助教 佐藤 博俊

背景

 一般に、微細で大量の散布体を放出する菌類などの微生物は広域分布しやすいとされるが、森林の優占樹種と共生する外生菌根菌では地域独自の群集がよく見られる。その理由として考えられるのは、外生菌根菌が選好する樹種の生育地にのみ進出できるという可能性である。先行研究では、共存する広葉樹と針葉樹の両方と共生とする外生菌根菌の事例が多数報告されている一方で、外生菌根菌の分布が宿主樹種の分布によって強く制限される事例が示されている。このように、一見、強い宿主選好性のなさそうな外生菌根菌で、なぜ、宿主樹種による分布制限が起こるのかはよく分かっていないのが現状である。

目的

 私は、上記矛盾に対する解釈として、『本来、外生菌根菌は宿主樹種を選ぶ性質は強いが、選好する樹種と共生を確立した後は容易に周囲に感染を拡大できる』という仮説を考えている。つまり、同じ樹種でも、単生時にはその樹種を選好する限られた系統の菌群と共生するが、混交すると周囲からの感染で共生できる菌群が拡大するという仮説である。本研究では、この仮説の検証を行う。

方法

 本研究では、函南原生林を調査地として、主要樹種であるブナとアカガシの成木を中心にコドラート(5m×5m)を50箇所設置する。次に、中心に据えた成木近くから菌根を含む土壌コアを採集する。同時に、コドラート内の潜在的な宿主の構成を目視で調べる。採集した菌根から菌類の核リボソームRNA遺伝子を増幅・配列解読した後、菌類のITS領域の配列に基づいて分子同定を行い、28S領域の配列に基づいて分子系統推定を行う。植物のバーコード領域も解読し、採取した菌根がブナやアカガシのものであることを確認する。最終的に、分子系統樹から、菌の系統的なまとまりの指標をコドラートごとに計算し、樹種の多様性が低いほど外生菌根菌が系統的にまとまるかどうかを検証する。

期待される成果

 本研究では、単純に菌の多様性を調べるのではなく、菌の系統的なまとまりを評価するため、宿主選好性が進化的に安定した性質であり、外生菌根菌の分布形成に寄与しうることを示すことができる。このように、本研究は、外生菌根菌の宿主選好性を紐解き、『なぜ、菌類の中でも外生菌根菌が地域独自の群集を形成しやすいのか?』という疑問の解明につながる研究である。