植物研究助成

植物研究助成 29-13

半導体レーザー分光技術で探る樹木の呼吸根のガス交換過程

代表研究者 京都大学 生存圏研究所
准教授 高橋 けんし

背景

 メタンガス(CH4)は強力な温室効果気体であり、その大気濃度の変動要因を解明することは、将来の気候変動予測にとって極めて重要である。従来、自然からの最大のCH4発生源は湿地であるとされており、先行研究の圧倒的多数は嫌気的環境にある土壌からの放出に着目している。しかし最近、ある種の樹木からCH4が放出されているという報告が出始め、大きな注目を集めている。仮に、樹木からのCH4放出が無視できない大きさを持っている場合、気候変動予測の根本が揺らぐことになる。また、植物生態生理学の観点からも、樹木がCH4を放出するメカニズムには十分に理解されておらず、学術的に非常に興味深い現象である。

目的

 本研究の目的は、嫌気的環境で生育する樹木からCH4が発生するという最近見つかった現象に着目し、(1)超高感度レーザー分光技術を駆使して樹木からのCH4発生量を精密に測定し、発生量を支配する環境要因(気象、土壌)を解明すること、(2)樹木の組織観察に基づいてCH4の輸送メカニズムを解明する、ことである。

方法

 大阪市立大学理学部附属植物園(大阪府交野市)にある沼地に生育する落葉針葉樹を研究対象に選び、CH4ガスの放出速度とその季節性を精密に計測する。具体的には、申請者が開発した波長1.65μmの近赤外半導体レーザーを用いた超長光路吸収分光法によるCH4のリアルタイム技術を、生態学の分野で汎用されている閉鎖循環型チャンバー法と組み合わせることで、植物園内での現場測定を実施する。また、光学・電子顕微鏡による組織観察を行うための予備実験も実施する。本研究ではまた、植物園内の沼の水および地下水をバイアル瓶に採取して実験室に持ち帰り、溶存CH4濃度をヘッドスペース法によるガスクロマトグラフ分析で計測する。

期待される成果

 本研究は、超高感度・高精度な測定が可能な半導体レーザー分光法を、樹木の呼吸根のガス交換過程の精密計測に応用する提案であり、植物生態学的な観点と分析化学・計測工学的な観点の両面から、注目を集める課題であると考えている。また、嫌気的環境で生育する樹木からのCH4放出という、植物生態学的に見て非常に新しい現象が、地球規模での気候変動という喫緊の課題につながっており、社会的にも重要な成果として位置付けられると考えている。