植物研究助成

植物研究助成 29-14

植物糖タンパク質の網羅的分析法の確立と低温応答解析での実践

代表研究者 埼玉大学 大学院理工学研究科
助教 高橋 大輔

背景

 植物にとって、凍結ストレスは水の状態変化を伴う複雑なストレスであり、生存を脅かす主要因でもある。近年の気候変動によって、気温の上昇に伴う積雪環境の変化や霜害の増加に起因した植物の大規模な生態学的変化が予想されている(Kreyling et al., 2012 Oecologia)。一方、植物の低温・凍結応答を分子生態学的に解析する上で、従来の遺伝子やタンパク質の網羅解析技術では検出が難しい糖タンパク質などの複合物質も、植物の低温応答に関与していることが予想されている(Takahashi et al., 2016 J. Exp. Bot.)。したがって、低温環境の変動に対する植物の影響評価・予測や具体的施策を考えていく上で、糖タンパク質の精緻な解析法の開発が望まれる。

目的

 そこで本研究では、植物がもつ糖タンパク質分子の網羅的解析技術を確立し、それらの低温応答性を明らかにすることで、気候変動に対する植物応答の予測と農業や生態系の保存施策への応用を見据えた研究を行う。

方法

 植物糖タンパク質の多くは、細胞膜上および細胞壁中に存在している。まずは、糖タンパク質を同一の植物体から簡便に分画する手法を確立する。糖鎖とタンパク質が結合した状態からは糖タンパク質の精密な解析は難しいため、糖鎖分解酵素を処理して単糖もしくはオリゴ糖に分解したのち、糖鎖構造の推定を行う(Pettolino et al., Nat. Prot.)。タンパク質はペプチドに断片化した後に、網羅的同定および定量を行う。以上の結果をもとに、細胞膜や細胞壁での糖タンパク質の組成と構造の比較、およびそれらの低温応答性の解析を行う。

期待される成果

 本研究を様々な植物種にも応用することで、気候変動に伴う低温・凍結環境の変化に対する正確な生態系影響評価・予測と、霜害を低減する農業的手法および品種の開発に寄与することが期待できる。また、凍結ストレスは細胞の脱水や物理的圧迫、高浸透圧ストレスを伴う複合的ストレスであるため、様々なストレスに耐性を持つ作物の育種や安定的農業生産に繋がる可能性がある。さらに、細胞壁は地球上最大のバイオマス資源であり、糖タンパク質もその構築に関わっているが、構造が複雑かつ極めて安定的であるため、資源としての利用が進んでいない。したがって、本研究はバイオマスの有効利用にも資する研究であると考える。