植物研究助成

植物研究助成 29-15

土壌中の栄養成分の電気化学センサによる直接評価法の開発

代表研究者 京都大学 大学院農学研究科
准教授 白井 理

背景

 植物の生長に合わせて栄養成分をコントロールできれば、農作物の成長促進や高品質化が期待できる。土耕栽培では水分量が一定せず、土壌中の栄養成分濃度の直接測定は困難である。しかし、専門的な知識や前処理などの操作を要せず、持ち運びが簡単で、且つ安価で容易に栄養成分濃度が測定できれば、施肥による栄養成分濃度の制御が可能となる。過剰な施肥による環境水の富栄養化を抑制できると同時に、農業の精密化が可能となり、画期的な技術革新となる。

目的

 土壌中にイオンセンサを挿入して各イオン濃度の測定を行う場合、センサ用電極と基準となる参照電極間は水相で満たされておらず、土壌粒子表面や隙間に存在する水相を介して二極間の電位差を測定する。したがって、二本の電極間をできるだけ近接させないと測定ができない。参照電極としては、一般的に安定性、価格、安全性等から銀-塩化銀電極が利用されている。しかし、銀-塩化銀電極を使用すると塩橋部分から内部電解質の KClが外部へ流出する。NO3-センサの場合、10-5 〜 10-4 M (mol L-1)程度のNO3-を測定する際にK+やCl-が10-3 M 以上共存すると妨害が現われる。流出するKClの影響によりK+及びNO3- の正確な定量が不可能となる。そこで、内部溶液および塩橋内の電解質の流出の影響が全くないあるいは内部電極からの電解質の流出の影響がない参照電極を構築し、土壌で直接測定できる電極系の構築を目的としている。

方法

 内部溶液の電解質の流出が全くない、銀-塩化銀電極以外の参照電極を考案する。溶液のpHがほぼ一定であれば、水素吸蔵パラジウムの表面では H2|H+対の酸化還元反応によってゼロ電流電位が決まる。この特性を活かした参照電極を作製する。あるいは電解質の流出の影響が極めて小さい参照電極を構築する。その際、塩橋部分にMgSO4のような電解質を利用し、KClの流出を抑制する。

期待される効果

 液間電位を発生させない意味でもKClが用いられてきたが、液間電位が一定であれば問題がないことを証明する。水素のみを放出する系あるいは極めて親水的で無害のMgSO4が流出する系であれば、生体や環境のその場分析や食品・医薬品の品質管理にも適用できる。このような参照電極ができると、妨害の影響を抑制できるので低濃度までの測定が可能となり、様々な分野で役立つ。