植物研究助成

期待大のバイオマス効果を実現し、その知見とノウハウを伝えていきたい

『高収量バイオマス竹稈の非破壊探索・評価技術の開発』
<第22回(平成25年度)〜第23回(平成26年度)助成>

代表研究者
富山県立大学工学部生物工学科
准教授 
荻田 信二郎さん
   「竹バイオマス研究の知見とノウハウをしっかり伝えていきたい」と荻田さん  
「竹バイオマス研究の知見とノウハウをしっかり伝えていきたい」と荻田さん

大型だが中空が難点の期待のバイオマス材

----タケをバイオマスとしての研究テーマに取り上げられた理由は何ですか。
写真私の在籍した生物工学科(平成27年4月から県立広島大学生命環境学部生命科学科教授として当研究を継続)では、植物の機能の高度化、つまり植物の工学的利用を図り、変異導入や遺伝子操作等も含めた形質の改良、価値付けの研究をしています。その中でタケは、発生・伸長・成熟の周期が3〜5年と短い大型植物で、製紙、製材、化成品等々に向けた新たなバイオマスとして有望視でき、関連企業等からも期待を集めているという背景があります。
そのタケは、竹稈という節と節の間に中空がある構造を持っています。中空が大きいほど材料にできる体積が少なく、生息地から加工地までの輸送にコスト的な無駄が増大します。従って効率的バイオマス利用にはまず、中空の小さな品種(中実竹稈=いわゆる肉厚のタケ)の探索・特定がポイントとなります。

----中実竹稈のタケの探索は現状ではどう行っているのですか。
私たちは高収量なバイオマス利用に期待できるタケを「中実竹稈候補品種」と呼んでいます。その品種の探索はこれまで静岡・富山・香川・福岡・沖縄の各県下で、まず目視による形態観察、大型であったり特徴的な形態を持つものについては打音比較、最終的には伐採して行ってきました。しかし打音比較には熟練した経験と勘が求められます。そして伐採して調べるのがもちろん確実ですが、伐ればその竹稈は死んでしまうし、何よりも大型植物であるが故に多量のサンプル採取にはかなりの労力と時間がかかります。この研究は、打音や伐採に頼らない手法となる非破壊での探索・評価技術の開発を目指して取り組んできたものです。

大型植物・タケのサンプル採取作業には大変な労力、時間が必要だ/節ごとにジグザグに伸びる形態のマダケの変異種(手前)は直径に対し中空部が少ない中実型品種の一例だ

中実竹稈品種と測定法が明らかになってきた

----全体的に研究はどういったレベルまで進んでいるのでしょう。
非破壊探索・評価技術の確立という最終目標に向け、まずは採取した竹稈の内外径、節間長等生長パラメータの測定による中実度の評価。併せて成分染色によって、導管や繊維等の組織で、タケを強くするリグニンの沈着状況、細胞壁の成熟度合、光合成の産物であるデンプン量等の組織構造を解析しました。さらにより詳細な生長解析モデルの構築を目指して行ったのがクローン化で、中実竹稈候補品種個体の温室内への定植と、竹枝の節につく芽を無菌培養し、いわば竹の苗を作る節培養技術によって行いました。この結果、静岡で採取したホウライチク、ホウライコマチ、香川で見つけたマダケの変異種等でクローンを得ています。

クローンを得るために温室に定植した中軸竹稈候補品種

各地で採取した解析用サンプル/節培養2年目のホウライコマチ 順調にクローン化している

----その中、非破壊技術開発に向けてはどのように取り組まれましたか。
計測に使用した竹稈の試験片とデータ比較のためのアルミ試験片無機物では非破壊で内部の状況を把握する技術は進んでいますが、生体への応用例はあまりありません。また殆ど山中の竹林で使う測定装置はハンディで操作が簡単であるべきです。そうした条件の下、まず実験室で始めたのが超音波探傷法による計測データ蓄積です。竹稈試験片に入射した超音波が空隙に当たり、反射波となって返ってくる時間の計測で中空の大きさ=肉厚を算出します。しかしタケの維管束に空気が含まれる、断面は真円でない、試験片ごとに含水率が異なる等、構造が不均一であり困難を極めました。これを、新たな非破壊探索・評価のためには、最初に指標を作ることが絶対必要との思いで、実測と計測設定変更を繰り返し、候補品種別に測定基本条件の決定に漕ぎつけました。
この測定の精度を高めるため組み合わせて実施した、各試験片を5〜45℃に保持後室温に静置して表面と内部の温度変化で肉厚を検出するサーモグラフィ測定でも一定の成果が得られ、これらは科学的信頼性の高い手法との確信を得ています。

データ蓄積から実践へ、実験室から野外へ

----研究はいよいよ佳境に入った感じですが、今後の計画は…。
これまで、中実竹稈候補品種だろうと各地から採取してきたタケを実際に測定し、組織構造を解析し、また中実竹稈品種の生長メカニズムを一層追究するクローン化、加えて遺伝子組み換えによる肉厚化の試み等でタケのバイオマス利用に一歩ずつ前進してきました。中実竹稈品種の組織解析とデータ化については年度内に論文化する予定です。そして、容易に、コストや時間や労力をかけずに中実竹稈品種を探索し、バイオマスとしてより適したタケを現場で評価する非破壊探索・評価技術についても、測定法の決定等でその基盤を固めました。
このところ、製紙や建材メーカーさん等から具体的な問合せが増えています。今後は、温室での育成品種の評価を継続しながら、データ蓄積から実践へ、実験室・温室から野外へと活動の展開に拍車をかけていきます。

----荻田先生の研究者としてこれからに向けた抱負、あるいは夢についてお聞かせください。
この研究はいわば日本の森林生態系の有効活用に資するものでもあります。国内森林面積の1〜2%でも中実竹稈のバイオマスタケを栽培し、エネルギー材料化できれば、化石資源の数%を代替でき、また原材料の供給においても商業ベースに乗せられると試算することもできます。そうしたタケのバイオマス効果をぜひ現実化すると共に、この分野の研究活動は国内外でも少ないだけに、その過程で得る様々な知見とノウハウをすぐ活用できる形にし、伝えていきたい。大学人としてそう考えています。
その合間、タケの細胞を光らせる遺伝子操作とその培養に成功しました。例えばこれを観葉インテリア用途に活かす"光る竹"へと発展させていく、そんな印象に残る方向にもチャレンジしたいと思っています。タケ…これからまだまだ面白くなります。
 (取材日 2015.5.8 富山県射水市・富山県立大学)