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植物研究助成
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東日本大震災関連の緊急提言
『「伊豆半島植物誌」のためのデータベース構築と地球温暖化の影響評価』
<第17回(平成20年度)〜第19回(平成22年度)助成>
代表研究者
神奈川県立生命の星・地球博物館
主任学芸員
田中 徳久
さん
伊豆半島の“今の自然”データベース化に取り組む生命の星・地球博物館・田中徳久主任学芸員
小地域のデータを積み上げ、より有効な植物誌を
----「伊豆半島植物誌」とはどういうものですか
ある特定の地域、あるいは時代に、そこにどんな植物が生きていたかの記録を残すのが植物誌です。その明確化は植物の育成環境解析や植物群落の形成、また動物や昆虫等を含めた生態系究明のための基礎となり、不可欠です。植物誌は地球レベル、国、また県単位では概要を示すものが既にあります。しかし、その根拠となる例えば富士山の麓ではどうなのか、静岡県のこの地域ではどうなのかといった地域密着のデータは詳細に整備されていません。こうした実態に対し、小地域の植物相、つまり一定の地域に自生するすべての植物種の把握から積み上げ、データベース化し、広範囲でのより詳細・有効な植物誌編纂の端緒にしたいとしたのが本研究です。
----伊豆半島を対象とした理由は何でしょう。
伊豆半島を選んだのは、相模灘から駿河湾にわたる長い海岸線と天城山をはじめとする山々を併せ持った地形、さらに伊豆諸島との関連もみられるという興味深い地域であり、下田等の南部や、天城等の山地に比し、北部での植物相調査がかなり遅れている。私たち植物学に携わる者から見れば非常に"面白い"地域であることが第一です。加えて私が勤務する小田原市の生命の星・地球博物館や、現地調査活動の拠点とする植物研究園との距離的利便性によります。
ここでの植物相調査では、全国的にもあまりに多い、いわゆる雑草までの種の分類や種名を決定する同定にはかなりの時間を要することもあり、まずは良い証拠となる良い標本を残すことを中心に考え、花や実をつける種に限定して採集しました。
小田原市入生田にある神奈川県立生命の星・地球博物館
新しい標本を加え、データベース化を完了
----では具体的に、どのようにデータベース化を進められたのですか。
まずは生命の星・地球博物館が所蔵する標本と資料、『伊豆半島の羊歯植物』『伊豆の植物』『静岡県植物誌』等既報文献のデータを活用したデータ整備。そして実際の植物相調査と採集した標本に基づいてのデータベース化を行いました。目的に賛同したボランティアの方々が多く参加してくれ、海辺、林間、街中を歩いての採集から標本作りまで熱心に取り組んでいただいています。そうした標本を私が分類しパソコンに登録、収蔵庫に配架しています。
データベース項目は植物の種名、採集日、地名とGPS測定した緯度・経度を併記した分布記録地(採集場所)、採集著名、デジタルカメラで撮影した画像が基本。この3年間に約20名で採集・標本化した約1100点を含めデータベース化を完了しています。
生命の星・地球博物館では毎年1回、学芸員の活動報告展が催される
----研究の過程で植物相と地球温暖化の影響はどのようにみられましたか。
地球温暖化の影響は気候変動と植物相の変化を比較し、例えば南方産の植物の増大や定着の状態等を見なければなりません。今回の期間ではそのためのデータがまだ十分でなく、残念ながら具体的事例を見出すことはできませんでした。
しかし、本研究のフィールド調査では、既報文献に登載されていないウラヂロチチコグサ、ツタバウンラン、ノアサガオ等々、多くの帰化植物、すなわち外来種の標本が採集されています。帰化植物の侵入には人為的な様々なケースがありますが、それが定着していることで伊豆半島の植物相が変化していることが明らかになり、同時にこれら帰化植物の一部の分布拡大は地球温暖化がその要因になっている可能性もあると考えられ、今後の検証の有用な基礎資料になったと思っています。
ボランティアのみなさんの協力を得て、フィールドでの植物採集と標本作成作業
標本を分類して配架する田中さん
ネットワーク形成による情報交流が楽しみ
----既存の情報を1件ずつ、そして実際に足で歩いてデータを整備する。大変地道な研究ですね。
その通りです。これは今行っていることからすぐ何かの、いわば“輝く”成果を生み出すというものではありません。その地域を特徴づけ、人々の生活を形作っている植物相は10年周期程度で変遷の状況を点検すべきと思っていますが、比較する基礎的なデータがなければそれはなし得ません。10年先、20年先のために今ある自然、その証拠を標本と共にできるだけ詳細に残すということなのです。それはさらに現在Aとしていたものが実はBとCであったという具合に、植物研究の進歩に貢献することにもなります。
植物の写真をクリックすると種名、採集日、地名と緯度・経度を併記した分布記録地、採集者名が表示されるパソコンのデータベース画面
----今後この研究を継続すると同時に、どのように広げていこうとお考えですか。
今関心を持っているのは、神奈川県を中心に考えると、神奈川県と静岡県、神奈川県と東京都といった隣接地における植物相の比較です。人が設定した境界により生じる生活や文化の相違と植物相との関わりを見てみたい。さらには植物相調査を、冒演述べた植物生態やトータルな生態系究明につなげる基礎研究としてしっかり確立していきたいと思っています。
小地域の植物相把握はやはり地元の人が取り組むのが一番です。全国でこの活動が広がって、情報交流のネットワークが形成されていけば、地球温暖化と植物相変化の関連等もより明確化されていくでしょう。今年中にはこれまで構築したデータベースを生命の星・地球博物館のホームページで公開しますが、たくさんの方から反応をいただき、そうした活動が広がることを楽しみにしています。
(取材日2011年5月13日小田原市・神奈川県立生命の星・地球博物館)
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