地球環境研究助成

地球環境研究助成04-01

赤外線カメラを用いた二酸化炭素ガス排出「見える化」技術の開発

代表研究者
国立研究開発法人 物質・材料研究機構
機能性材料研究拠点・グループリーダー
宮崎 英樹

研究の背景・目的

 二酸化炭素(CO2)をはじめとする温室効果ガスは、地表から熱放射される赤外線を吸収して大気圏の温度を上昇させる。これは裏を返せば、赤外線領域で高い吸収・放射を示す温室効果ガスは、赤外線を利用して計測するのに適した対象であることを意味する。本研究の目的は、申請者独自のCO2を可視化する単一波長赤外線カメラを用い、CO2の漏洩箇所を発見したり、排出されたCO2の濃度、排出量、排出速度を画像から計測する、CO2「見える化」技術を開発することである。

研究内容・課題

 本研究の核となるのはCO2の吸収波長だけを見ることにより、CO2を特異的に可視化する世界最高性能の赤外線カメラである。本研究では、このカメラを用いた2つの階層の基礎技術の開発を課題とする。第一はCO2漏洩検知性能の明確化である。CO2パイプラインや農業用ハウスからの大気中へのCO2の漏洩を検出したり、漏洩個所を特定する技術が今後必要となる。ここでは、定量性よりも漏洩の有無、どこまで微小な濃度・流量のCO2を画像強調により検出できるか、が問われる。第二はCO2排出量定量計測技術の確立である。画像の輝度と濃度の対応関係から濃度が分かれば、面積分により1枚の画像中の総量がわかる。動画から動きを抽出すれば、排出速度まで画像から計測できる。

課題解決の研究手法

 まずは既知の濃度・流速等で噴出するCO2をレンズ・焦点位置など様々な光学条件で観察し、系統的な事例を集積していく。ガスの見え方は濃度だけでなく温度にも依存するが、本研究では堅実な基盤技術構築のため、対象を濃度に絞る。第1課題のCO2漏洩検知性能の明確化に向けては、画像強調処理条件と画像SN比の関係から検出可能なCO2濃度の下限を明らかにする。第2課題の排出量定量計測技術の確立に向けては、レンズの収差など、現実の不完全さをも考慮した理論モデルを構築していく。

期待される研究成果

 多数のCO2センサを接続するIoT式アプローチに対し、赤外線カメラを用いて遠方から画像としてCO2分子の挙動を大局的・動的に捉える本手法は、どこからどのようにどの程度のCO2が大気中に排出されているかをより直接的に「見える化」する。本研究で開発する技術は、地球温暖化対策のための重要なインフラとなる。また、CO2の排出をありのままに示す映像は、人々の意識を変える大きな力を発揮するであろう。
 特定波長の吸収に注目して特定のガスを画像として見る技術はこれまでも存在したが、危険性の高いガスを対象とした特殊な技術に留まっていた。また、定量計測の試みも研究例が少なく、極めて高濃度の対象に限られていた。本研究は、CO2を対象とした現場での有用性実証を重要な目標とするが、学術的にも、CO2に限らない多様なガスの可視化の標準技術を提示する点で貢献できると期待している。