地球環境研究助成

地球環境研究助成01-03

生体膜機能活用による植物の水利用効率向上

代表研究者
国立研究開発法人 理化学研究所 環境資源科学研究センター
上級研究員 黒森 崇

研究の背景・目的

 地球温暖化への対策に、植物科学で得られた知識を活かし、植物を役立てることは有力なアプローチの一つである。気候変動下では地球全体で耕作地などが影響を受け、また乾燥地帯やそれに準ずる地域では水の利用がこれまで以上に切迫してくると考えられる。本研究では、生体膜機能を活用することで、植物の水利用効率向上という個体レベルでの形質に着目している。これまで行ってきた試験から、水分蒸散に関わる植物ホルモンの輸送体発現制御によって、植物個体の水利用効率が向上する結果が得られており、この結果を実用植物等へ展開する。また、植物の水利用効率の向上に役立つ制御因子を見つけるため、機能ゲノム学的な手法を用いて、新たな生体膜因子の同定と膜機能の強化を目指している。

研究内容・課題

 2つの課題から研究内容を構成している。研究課題1「膜輸送体の実用植物種オーソログを利用した水利用効率向上」:これまでにモデル植物において、膜輸送体を発現誘導することで有用形質が付与された結果(Kuromori et.al. 2016)が得られている。この成果を利用して穀物や樹木への展開を図る。研究課題2「水利用効率向上に関わる新規生体膜因子の同定と膜機能の強化」:植物体の水分蒸散や気孔の状態を効率的に検定し、生体膜タンパク質を機能ゲノム学的に調べる。水利用効率に関する新規の生体膜因子の発掘と膜機能の強化を目指している。

課題解決の研究手法

 植物への生長促進や環境耐性の付与を目的に、国内外において様々な試験が行われてきた。これまで有用形質が付与された場合では、植物体の生育そのものが阻害されてしまうことが多く、耐性と生長のバランスが問題になっていた。本研究では、植物個体としての水利用効率を高めることを指標に、生長と反応のバランスを重視することで問題を解決することを目指している。また、これまで植物個体の解析では、目に見える形質(visible phenotype)を指標にして行われることが多かったが、本研究では赤外線カメラ等の機器を利用することで、目視の観察では判定することが難しい水分蒸散量を迅速に検出する方法を用いる。

期待される研究成果

 地球規模の気候変動下では、水の利用がこれまで以上に切実な問題となる中で、植物体の水利用効率を向上させ、生長と環境応答をバランス良く制御できる技術を創生する。わずかな水利用効率の変化であっても、成長や収量が大きく変わる可能性がある。生体膜機能を活用することで、個体レベルでの水利用効率向上という有用形質に着目し、地球温暖化対策への貢献と寄与を行う。